マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

革新的に詳しくて正しくて、しかも圧倒的に美しい

 ――ヨーロッパでは、紀元2世紀ギリシャ・ローマの医師・医学者アエリウス・ガレノス(Aelius Galenus)の残した知見が、その死後 1,400 年もの長きにわたって、延々と追認をされていたのであるが、そうした医学の停滞は、16世紀のブリュッセル生まれの医師・解剖学者アンドレアス・ヴェサリウス(Andreas Vesalius)によって吹き飛ばされた。

 ということを、きのうの『道草日記』で述べました。

 

 医学の歴史をよく知っている人に、

 ――ヴェサリウスの功績を1つ挙げて欲しい。

 と頼むと――

 おそらく、10人が10人、

 ――ファブリカ(fabrica)

 と答えます。

 

 ――ファブリカ

 とは、人の体が解剖をされた様子をまとめた図版集です。

 正式名は、

 ――人の体の構造(De humani corporis fabrica)

 です。

 

 この図版集で示された人の体の様子が、当時としては、革新的に詳しくて正しくて、しかも圧倒的に美しかったのですね。

 

 この図版集の出版は、ヴェサリウスの強烈な個性を抜きにしては、ありえなかったはずです。

 

 ガレノス以来の医学知識に精通をしていて、かつ、自ら解剖用の刃物を握って人の体をどんどん切り開いていった――

 そんな人物であったからこそ、ヴェサリウスは『ファブリカ』を世に問えたのです。

 

 ガレノス以来の医学知識が欠けていても、自ら解剖用の刃物を握る意欲に欠けていても、『ファブリカ』が日の目をみることはなかったに違いありません。

 

 以後――

 少なくともヨーロッパでは、写実的な絵画に基づき、人の体の形態や機能を現実的に考えていく土壌が開けていきます。

 

 17世紀序盤に「血液循環」説を唱えたウィリアム・ハーヴィー(William Harvey)は――

 その約 100 年後に登場をするのです。