短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の主人公・虫好きの姫の直系の継承者は――
漫画およびアニメーション映画『風の谷のナウシカ』の主人公ナウシカである――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
ナウシカは――とくに漫画『風の谷のナウシカ』のナウシカは――
古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』の王女ナウシカアーと同じように、
――異世界からの訪問者との出会い
と、
――その出会いに続く旅立ち
とを経て、物語の佳境を迎えます。
一方、
――虫愛づる姫君
の虫好きの姫には、そのような出会いも旅立ちもありません。
では――
ナウシカは、虫好きの姫から何を受け継いでいるのでしょうか。
おそらくは、
――物事の本質を見極めようとする姿勢
です。
9月21日の『道草日記』で述べたように――
虫好きの姫は、両親や侍女たちから、
――そんなふうに虫を可愛がっていると世間体が悪くなるので、やめて欲しい。
と忠告をされても、
――蝶の本性は、その幼虫に秘められている。蝶を美しいと思うのなら、その幼虫にも関心を向けるのが自然である。
と反論をし、自分の言動を改めようとはしませんでした。
かなり頑なな姿勢といってよいでしょう。
漫画『風の谷のナウシカ』のナウシカも、同じように頑なな姿勢を貫きます。
ナウシカの物語の舞台は遠い未来です。
人類が築き上げてきた高度産業文明が「火の7日間」と呼ばれる破滅的な戦争によって滅び去ってから 1,000 年後――
地球上には「腐海(ふかい)」と呼ばれる異形の生態系――巨大な菌類から成る森――が拡がっています。
そして――
その腐海には「蟲(むし)」と呼ばれる昆虫のような巨大な生物が無数に生息をしていて、あたかも人類の干渉から腐海を守っているかのようです。
その蟲たちに魅せられて――
物語の中では、様々な登場人物たちが、腐海へ向けられたナウシカの探求心を逸らそうとするのですが――
ナウシカは、かなり頑なです。
(そこまで拘るか)
とも思えるのですが――
――虫愛づる姫君
の頑なさを受け継いでいると思えば――
それなりの趣が感じられます。
どこまでも物事の本質を見極めようとするナウシカの姿勢には、300 ~ 1,000 年の悠久の時の流れが注ぎ込んでいるのです。