――事件は会議室で起きてるの。勘違いしないで――
という刑事ドラマ映画の台詞をきいて――
現場から遠く離れていたはずの会議室が、あるとき突然、第二の現場になっていく物語の展開を思い浮かべたことがある――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
実際に――
会議室で事件が起きる刑事ドラマというのは――
かなりスリリングな展開であろうと思います。
会議の出席者の誰かが急に銃撃を始める、とか――
……
……
さて――
今、僕が関心をもっているのは刑事ドラマの物語ではなくて――
短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、
――虫愛づる姫君
の物語――
主人公・虫好きの姫が、安楽椅子探偵(armchair detective)型ならぬ脇息(きょうそく)探偵型の役回りを演じるような物語――
です。
刑事ドラマの物語で――
会議室が第二の事件の現場になれば、俄然、展開がスリリングになるように――
虫好きの姫の物語でも――
脇息の周辺が第二の事件の現場になれば、俄然、展開がスリリングになるのは――
間違いないでしょう。
それまでは、事件の現場から遠く離れ、脇息に寄りかかって心静かに事件のことを考えていた虫好きの姫が――
突然、第二の事件の現場に放り出されるのです。
例えば――
虫好きの姫の居室が、いきなり蝗(いなご)の大群で埋め尽くされる、とか――
巨大な蜘蛛が現われ、虫好きの姫との対話を求めてくる、とか――
あるいは――
虫使いの暗殺者が内働きの召使に紛れて、虫好きの姫の命を狙う、とか――
今まで安全地帯にいた主人公が、いきなり危険地帯に迷い込む――
しかも――
その主人公は、平安期の貴族階級の若い女性である――
そんな物語は、なかなか他ではみられないでしょう。