電車に乗っていたら、後ろの座席からスッと声が耳に入ってきまして――
――主人の父親も同じ膵臓がんだったんですって――
と、いうのです。
年配の女性の声でした。
連れの女性と話し込んでいるようです。
――主人がいうには、自分は、ほとんど父親の病気のことを知らされなかった、と――よくわからないまま死んでしまった、と――
――あーあー。
――だから、うちの娘たちには、最初から主人の病気のことを話したの。お父さんに残された時間は、もう少ないのよ――精一杯に看病してあげてねって――
――うーん。
――いろんなことしてたわ、娘たち――どこまで受け止めたかはわからないけれど――何しろ、まだ中学生だから――
(え?)
と思いました。
その声の主――
電車を降りるときに、それとなく振り返ってみてみたら――
さほど年配の女性ではありませんでした。
せいぜい50代です。
娘さんたちが中学生なら、そうですよね。
*
つい聞き耳をたててしまったのは申し訳なかったのですが――
心に残るお話でした。