――藤原景清(ふじわらのかげきよ)
のことを――
僕が初めて知ったのは――
――平家物語
の現代語訳を子ども向けに編み直した本を読んでいた時であった。
例の、
――源頼朝
の子ども向けの伝記を読んだ直後のことである。
その本では――
たしか、
――藤原景清
の名ではなくて――
――悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)
の名で――
登場をしていた。
が――
――悪七兵衛景清
は――
少なくとも、
――平家物語
においては――
とくに、これといった大活躍をするわけではない。
そうした展開は――
もちろん――
僕が読んでいた、
――平家物語
の現代語訳を子ども向けに編み直した本でも――
同じであった。
――平家物語
で、あまり活躍をしない――
ということは――
――源平の争乱
で、あまり活躍をしなかった――
ということに等しい。
それにも関わらず――
その本の作者は――
――悪七兵衛景清
が、
――源平(げんぺい)の争乱
の時代から有名な“人物”であり――
昭和後期の現代においても――
その豪勇や怪力によって人々に幅広く知られている“人物”である――
ということを前提にしていた。
――源平の争乱
で、とくに活躍をしたわけでもないのに――
なぜ、そこまで有名なのか――
当時の僕には――
さっぱり、わからなかった。
ある程度わかるようになったのは――
20代に入ってからである。
――悪七兵衛景清
が有名である理由は――
――平家物語
の原典をいくら丁寧に読み込んだところで――
決して、わからない。
その理由は――
――悪七兵衛景清
が――
室町期以降――
能などを媒体とする様々な“物語”で主役として扱われてきたからである。
能、浄瑠璃、歌舞伎、落語などの古典芸能において――
である。
その作品の一群は、
――景清物(かげきよもの)
と呼ばれ――
ある種のジャンル(genre)のように扱われてきた。
それゆえに――
――悪七兵衛景清
は、有名なのである。
が――
昭和末期以降――
――景清物
に思わぬ新作が加わった。
その媒体は、アーケードゲーム(arcade game)であった。
……
……
『物語』