マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

“悪役”に仕立て上げていく素地

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 を、

 ――魅力的な悪役

 に仕立て上げるには――

 

 いわゆる、

 ――源平(げんぺい)の争乱

 を――

 ――源頼朝

 と戦った、

 ――平清盛(たいらのきよもり)

 や―― 

 その子や孫らのうちの誰かを、

 ――主役

 に仕立て上げればよい。

 

 が――

 

 誰を、

 ――主役

 に仕立て上げればよいのか。

 

 ……

 

 ……

 

 適者は、なかなか見当たらない。

 

 例えば――

 ――平清盛

 は――

 ――源頼朝

 より 30 歳ほど年上であり――

 

 ――源頼朝

 が兵を挙げてから、1 年ほどで病没をしている。

 

 その子や孫らには――

 これといった英傑を見出せない。

 

 ――平清盛

 の嫡男、

 ――平重盛(たいらのしげもり)

 は――

 有能な人格者ではあったようだが――

 

 少しばかり線が細く――

 頑健とはいえない体であり――

 

 父、

 ――平清盛

 よりも先に病没をした。

 

 代わって後継者になった、

 ――平宗盛

 は――

 父や兄に似ず、凡庸であった。

 

 これら 3 人の中で――

 あえて、

 ――源頼朝

 を、

 ――魅力的な悪役

 に仕立て上げるに足る、

 ――主役

 を見出すとしたら――

 

 やはり――

 ――平清盛

 の他にはない。

 

 ……

 

 ……

 

 ほんの 40 ~ 50 年前までは――

 ――平清盛

 の築き上げた政権は――

 ――武家政権

 というよりは――

 ――公家政権

 である――

 と認識をされていた――

 

 既存の、

 ――公家政権

 を――

 武士の出自であった、

 ――平清盛

 が乗っ取った――

 という認識である。

 

 が――

 そうした認識は――

 数多くの史料が読み解かれていった結果――

 この 10 ~ 30 年で大きく変わってきたという。

 

 例えば――

 歴史の教科書には――

 いわゆる、

 ――守護・地頭

 は、

 ――鎌倉幕府

 によって初めて設置をされた――

 と読めるように書かれているが――

 

 実際には――

 その原形ともいえる役職が――

 ――平清盛

 の政権によって――

 少なくとも部分的には――

 設置をされていた――

 

 つまり――

 

 ――鎌倉幕府

 は――

 ――平清盛

 の政権が推し進めたことをさらに徹底的に推し進めようとしたに過ぎない――

 ということである。

 

 こうした解釈を踏まえれば――

 

 ――源頼朝

 は、

 ――平清盛

 の真似をしただけ――

 ということになる。

 

 ――画期的な政策を横取りしただけ――

 ともいえる。

 

 ……

 

 ……

 

 このようにして――

 

 ――源頼朝

 を、

 ――悪役

 に仕立て上げていく素地が――

 調えられていく。

 

 『物語』

“源頼朝”を“悪役”にする

 もし、

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 を、

 ――悪役

 にするのであれば――

 

 いわゆる、

 ――源平(げんぺい)の争乱

 を――

 ――物語

 の主題として――

 扱うのがよい。

 

 ――源平の争乱

 とは――

 平安末期に日本列島で起こった内戦を指す。

 

 簡単にいうと――

 

 ――平清盛(たいらのきよもり)

 および――

 その子や孫らと、

 ――源頼朝

 との戦いである。

 

 ただし――

 

 ――平清盛

 は――

 ――源頼朝

 が兵を挙げた後――

 わずか 1 年足らずで病没をしているため――

 

 実際には――

 ――源頼朝

 と、

 ――平清盛

 の子や孫らとの戦い――

 ということになる。

 

 歴史の教科書では、

 ――治承(じしょう)・寿永(じゅえい)の乱

 と記されている。

 

 この“争乱”で勝利を収めたのは――

 ――源頼朝

 であった。

 

 現在の関東地方や近畿地方、中国地方を主戦場として――

 ――平清盛

 の子や孫らを討ち破っている。

 

 が――

 いとも簡単に討ち破ったわけではない。

 

 約 6 年の歳月が費やされた。

 

 いわゆる、

 ――天下分け目の戦い

 が――

 約 6 年間、続いたことになる。

 

 この“戦い”の構図を活かすことで――

 

 ――源頼朝

 を、

 ――悪役

 に仕立て上げることが可能だ。

 

 それも――

 ただの、

 ――悪役

 ではない。

 

 ――魅力的な悪役

 に仕立て上げる――

 

 どうすればよいか。

 

 ……

 

 ……

 

 答えは、単純である。

 

 ――平清盛

 の子や孫ら――

 あるいは――

 その子や孫らに縁の深い者を、

 ――主役

 に仕立て上げる――

 

 そうすれば――

 必然的に、

 ――源頼朝

 が、

 ――悪役

 になる。

 

 ……

 

 ……

 

 が――

 

 これが簡単ではない。

 

 ――平清盛

 は――

 子や孫らに――

 概して人を得なかった。

 

 嫡男、

 ――平重盛(たいらのしげもり)

 だけは、例外で――

 

 武勇に優れ、気性は穏やかで、人望は厚く――

 ――平清盛

 の後継者として嘱望をされたが――

 

 身体が今一つ壮健ではなかったらしく――

 次第に一族の内輪揉めに晒され、精彩を欠くようになった。

 

 そして――

 最期は――

 父、

 ――平清盛

 よりも先に病没をした。

 

 代わって後継者となったのは――

 異母弟の、

 ――平宗盛(たいらのむねもり)

 であったが――

 

 異母兄とは違って――

 武勇に秀でず、気性は安からず、人望に欠けていたらしい。

 

 結局――

 一族を纏め上げることができずに――

 

 ――源頼朝

 との戦いに敗れ去った。

 

 ……

 

 ……

 

 『物語』

告白をした序でに――

 告白をした序(つい)でに――

 

 もう少し、

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 のことについて――

 述べておきたい。

 

 ……

 

 ……

 

 きのうの『道草日記』で述べた通り――

 

 僕は――

 20歳の頃――

 ――北条時政

 を、

 ――主要な登場人物の一人

 に据えて――

 小説を書こうと思った。

 

 その小説の、

 ――物語

 としての展開について――

 である。

 

 ……

 

 ……

 

 史実の、

 ――北条時政

 を丹念に追っていくと――

 

 この、

 ――鎌倉幕府・初代執権

 は――

 どうも利己的で局所的な物の見方をしていたようである。

 

 よって――

 多少なりとも利他的で大局的な物の見方をしていた者を、

 ――物語

 の、

 ――主役

 に据えようとする限り――

 

 ――北条時政

 は――

 どうしても、

 ――悪役

 にせざるをえない。

 

 が――

 それでも――

 あえて、

 ――北条時政

 を、

 ――主役

 として描くのなら――

 

 その、

 ――物語

 では――

 利他的で大局的な物の見方をする者を、

 ――悪役

 に据えざるをえなくなる。

 

 例えば――

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 も、

 ――北条政子(ほうじょうまさこ)

 も、

 ――北条義時(ほうじょうよしとき)

 も――

 皆――

 その、

 ――物語

 では、

 ――悪役

 となる。

 

 20歳の頃の僕は――

 この点の理解が欠けていた。

 

 ――源頼朝

 や、

 ――北条政子

 や、

 ――北条義時

 を、

 ――悪役

 として描く――

 ということが――

 どうしても、しっくりとこなかった。

 

 いや――

 

 実際に、

 ――悪役

 として描こうとはしたのである。

 

 少なくとも、

 ――北条義時

 は――

 たしかに、

 ――悪役

 にした。

 

 が――

 

 ――源頼朝

 は違った。

 

 なかなか、

 ――悪役

 にできなかった。

 

 なぜか。

 

 ……

 

 ……

 

 おそらく――

 

 僕が生まれて初めて読んだ歴史の本が、

 ――源頼朝

 の子ども向けの伝記であったから――

 である。

 

 もし――

 それが、

 ――織田信長(おだのぶなが)

 や、

 ――豊臣秀吉(とよとみひでよし)

 や、

 ――徳川家康(とくがわいえやす)

 の伝記であったなら――

 

 何の躊躇もなく、

 ――源頼朝

 を、

 ――悪役

 にできていたであろう。

 

 が――

 

 本当に――

 そうであったなら――

 

 そもそも――

 僕は、

 ――北条時政

 に大して関心を払わなかったであろう。

 

 つまり――

 

 ――北条時政

 を、

 ――主要な登場人物の一人

 として小説に書こう――

 とは、つゆも思わなかったはずである。

 

 『物語』

少し告白をすれば――

 少し告白をすれば――

 

 ……

 

 ……

 

 20歳の頃――

 

 僕は、

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 を主人公に――

 小説を書こうと思ったことがある。

 

 厳密には、

 ――主人公

 ではなくて――

 

 ――主要な登場人物の一人

 であった。

 

 が――

 

 ……

 

 ……

 

 当時の僕は――

 

 ――北条時政

 のことをわかっていなかった。

 

 だから――

 

 筆は遅々として進まなかった。

 

 ……

 

 ……

 

 結局――

 

 ――北条時政

 を描くのは諦め――

 

 その息子をあえて創り出し――

 その者を、

 ――主要な登場人物の一人

 として描こうとした。

 

 念のために断っておくと――

 

 その「息子」というのは、

 ――北条宗時(ほうじょうむねとき)

 ではない。

 

 2026年8月4日以降の『道草日記』で――

 繰り返し触れてきた、

 ――北条宗時

 ではない。

 

 ――歴史上、実在をしていない息子――

 

 つまり――

 全く虚構の“人物”である。

 

 ……

 

 ……

 

 が――

 

 ……

 

 ……

 

 そのような、

 ――捏造

 ともいえる、

 ――創造

 を加えても――

 

 筆は遅々として進まなかった。

 

 なぜか。

 

 ……

 

 ……

 

 要するに――

 

 ――北条時政

 であろうと――

 その虚構の“息子”であろうと――

 

 ――北条時政

 の為人(ひととなり)を正しく知っておかなければ――

 

 ――北条時政

 が関わる、

 ――物語

 というのは――

 少なくとも円滑には紡げない――

 ということである。

 

 もちろん――

 

 ――北条時政

 が関わる、

 ――物語

 というのには――

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の、

 ――物語

 も――

 含まれる。

 

 ……

 

 ……

 

 そういえば――

 

 僕が最初に読んだ歴史の本が、

 ――源頼朝

 の子ども向けの伝記であったことは――

 2026年8月1日の『道草日記』で――

 すでに述べた通りであるが――

 

 その伝記の本では――

 

 ――北条時政

 のことが――

 ほとんど描かれていなかったように記憶をしている。

 

 なぜか。

 

 ……

 

 ……

 

 作者が、

 ――北条時政

 のことをわかっていなかったからか――

 

 それとも――

 

 わかってはいたが――

 ――主人公の舅が悪役である。

 という設定は――

 少なくとも子ども向けの本には不適切――

 と考えられたからか――

 

 ……

 

 ……

 

 いずれにせよ――

 

 ――源頼朝

 の子ども向けの伝記には――

 ――北条時政

 のことは、あまり描かれない――

 という傾向が――

 もし見出せるとしたら――

 

 よく腑に落ちる。

 

 『物語』

悪役

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の愛妾が、

 ――うわなり打ち

 に遭った事件について――

 

 これを――

 

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 の深謀に端を発していると見るか――

 

 ――北条時政

 の短慮が偶然にも功を奏したと見るか――

 

 ……

 

 ……

 

 どちらにせよ――

 

 ――北条時政

 の為人(ひととなり)に――

 ある種の卑小感が齎(もたら)されることは――

 間違いなかろう。

 

 ――深謀に端を発している――

 との見方を採れば――

 ――北条時政

 は、自分のことしか考えていない――

 ということなり――

 

 ――短慮が偶然にも功を奏した――

 との見方を採れば――

 ――北条時政

 は、ただ振り回されているだけ――

 ということになる。

 

 ……

 

 ……

 

 むしろ――

 このような、

 ――小者感(こものかん)

 の漂う舅を信じ――

 あえて重要な役割を託した婿の器量にこそ――

 衆目が集まりそうである。

 

 ――北条時政

 に、

 ――鎌倉幕府・初代京都守護

 の役割を託した、

 ――源頼朝

 の器量にこそ――

 という意味である。

 

 ――さすがに日本史に名を残しただけのことはある。

 というべきか。

 

 ……

 

 ……

 

 おそらく――

 

 ――源頼朝

 にとって――

 ――北条時政

 は――

 できれば関わりたくない者であった――

 

 その他・大勢の御家人たちの一人に留(とど)めておきたい相手であった――

 

 が――

 

 すでに、

 ――舅・婿

 の間柄になってしまっていた――

 

 それゆえに――

 適度な距離感を保って慎重に関わり続けるべき相手であった――

 

 その距離感を間違えたら最後――

 命取りとなりかねない――

 

 そういう相手であった――

 

 ……

 

 ……

 

 なので――

 

 ――源頼朝

 の、

 ――物語

 にとって――

 ――北条時政

 は――

 ――悪役

 が適切なのである。

 

 ――主役と潜在的に敵対を続ける重要な脇役

 という意味である。

 

 この“悪役”の面相に気付かない限り――

 

 ――北条時政

 は、わからない。

 

 わからないばかりか――

 

 かえって、

 ――源頼朝

 の股肱の臣――

 などと誤解をしてしまう。

 

 気をつけたい。

 

 『物語』

短慮か

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の愛妾が、

 ――うわなり打ち

 に遭った事件については――

 少なくとも2つの解釈が可能である――

 と、きのうの『道草日記』で述べた

 

 1つは――

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 の深謀に端を発している――

 という解釈で――

 

 もう1つは――

 ――北条時政

 の短慮が偶然にも功を奏した――

 という解釈である。

 

 ……

 

 ……

 

 婿の、

 ――源頼朝

 が――

 娘の、

 ――北条政子(ほうじょうまさこ)

 に隠れて愛妾を囲っていたことは――

 全く知らなかったわけではなかった――

 

 が――

 さほどの大事とも思わず――

 放っておいた――

 

 ある時――

 その事実を――

 娘が知ってしまう――

 

 その事実を娘に伝えたのは――

 自分の“若すぎる後妻”であった――

 

 逆上をした娘は――

 父に相談をすることもなく――

 父の“若すぎる後妻”の実家の当主に、

 ――うわなり打ち

 を命じる――

 

 自分の愛妾が、

 ――うわなり打ち

 に遭ったことを知って――

 婿の、

 ――源頼朝

 も逆上をする――

 

 舅の、

 ――北条時政

 に相談をすることもなく――

 その、

 ――うわなり打ち

 を行った御家人に子どもじみた嫌がらせをする――

 

 嫌がらせを受けた御家人が――

 自分の“若すぎる後妻”の実家の当主であったので――

 今度は、

 ――北条時政

 が逆上をする――

 

 そして――

 ――婿殿には、ほとほと愛想が尽きたわ!

 と吐き捨て――

 鎌倉を離れ、郷里に籠ってしまう――

 

 この時――

 ――北条時政

 は――

 本気で、

 ――源頼朝

 を見限る気でいた――

 

 もし――

 鎌倉から兵が差し向けられたら――

 一戦を交える覚悟でいた――

 

 が――

 その頃の、

 ――源頼朝

 は――

 まだ京の都を手中に収めていなかった。

 

 自分の従弟に当たる者が――

 いち早く都へ入り、

 ――朝廷

 の政権を操ろうとしていた。

 

 ――平清盛(たいらのきよもり)

 の子や孫らも――

 日本列島の南西部に在って、まだ健在であった。

 

 内輪揉めなどをしている暇は無かった。

 

 舅の頑なな態度に閉口をしつつも――

 ――たしかに余も大人げなかった。

 と反省をして――

 婿は、舅に詫びを入れた――

 

 その詫びの印として、

 ――鎌倉幕府・初代京都守護

 の役割を与えた――

 

 そういう解釈である。

 

 ……

 

 ……

 

 この解釈だと――

 

 ――源頼朝

 の度量の広さが際立つ。

 

 少し際立ち過ぎる嫌いもあるが――

 

 ――源頼朝

 が、鎌倉の御家人たちを束ねる魅力を備えていたらしいことは――

 史実が示すところである。

 

 さほど奇妙な解釈でもない。

 

 『物語』

深謀か

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の愛妾が、

 ――うわなり打ち

 に遭った事件については――

 少なくとも2つの解釈が可能である。

 

 1つは――

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 の深謀に端を発している――

 という解釈――

 

 それまで――

 ――北条時政

 は、

 ――源頼朝

 の幕閣に在って――

 これといった大役を請け負えずにいた。

 

 なまじ、

 ――源頼朝

 の舅であったため――

 それに見合った存在感を放てないことに――

 忸怩たる思いがあった――

 

 そこで――

 婿の、

 ――源頼朝

 が――

 かねてより――

 娘の、

 ――北条政子(ほうじょうまさこ)

 に隠れて愛妾を囲っていたことに目を付けた――

 

 その事実を――

 娘が偶発的に知るように仕向けた――

 

 父親として――

 娘の性格は熟知をしていた――

 

 案の定――

 逆上をした娘は――

 しかるべき御家人に、

 ――うわなり打ち

 を命じる――

 

 自分の愛妾が、

 ――うわなり打ち

 に遭えば――

 婿の、

 ――源頼朝

 が、どのように動くのか――

 舅の、

 ――北条時政

 には自明であった――

 

 婿は――

 面子を潰されると――

 子どもじみた嫌がらせをする――

 

 その無体を諫める体裁で――

 

 舅は――

 鎌倉を離れ、郷里へ籠り――

 

 婿が詫びを入れて来るまで、待つ――

 

 首尾よく――

 詫びを入れて来た時点で――

 

 その詫びを受け入れる代わりに――

 何か大役を回してくれるように依願をする――

 

 そのようにして得たのが、

 ――鎌倉幕府・初代京都守護

 の役割であった――

 

 そういう解釈である。

 

 ……

 

 ……

 

 この解釈だと――

 

 ――北条時政

 は、かなりの策士――

 ということになる。

 

 が――

 

 果たして――

 人は――

 そこまで先々を見通して策を講じられるであろうか。

 

 少々――

 離れ業に過ぎるような気がする。

 

 そこで――

 別の解釈に辿り着く。

 

 ――北条時政

 の短慮が偶然にも功を奏した――

 という解釈である。

 

 ……

 

 ……

 

 『物語』

事件の概略

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 が――

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の命を受け――

 一千騎の兵を率いて鎌倉から京の都へ向かう前――

 

 事件が起きていた。

 

 この事件の顛末にこそ、

 ――北条時政

 の本性が現れているのかもしれない。

 

 ……

 

 ……

 

 どんな事件か。

 

 ……

 

 ……

 

 ――源頼朝

 の側室と見られていた女性が、

 ――うわなり打ち

 に遭う――

 という事件であった。

 

 ――うわなり打ち

 とは、

 ――離縁をされた先妻が後妻を妬んで襲う風習

 を指す。

 

 平安期から江戸期にかけて――

 日本で行われていた習俗である。

 

 ――うわなり

 は、

 ――後妻(うわなり)

 と書く。

 

 本妻が愛妾を襲うことも含まれていたらしい。

 

 ――源頼朝

 の側室と見られていた女性に対して仕掛けられた、

 ――うわなり打ち

 は――

 ――源頼朝

 の正妻である、

 ――北条政子(ほうじょうまさこ)

 の仕業であった。

 

 伝えられているところによると――

 

 ――源頼朝

 が、

 ――北条政子

 に隠れて愛妾を囲っていたところ――

 

 そのことに――

 例の、

 ――北条時政

 の“若すぎる後妻”が一早く気付き――

 

 ――北条政子

 に伝えた――

 

 ――北条政子

 は、激高をして――

 

 その“若すぎる後妻”の父ないし兄に当たる御家人に、

 ――うわなり打ち

 を命じた――

 

 ――うわなり打ち

 に遭い――

 ――源頼朝

 の側室と見られていた女性は――

 命からがら逃げ延びる――

 

 そのことを伝え聞き――

 ――源頼朝

 も激高をした――

 

 ――北条政子

 の命を受けて、

 ――うわなり打ち

 を行った御家人を𠮟りつけ――

 その髷(まげ)を他の者たちの面前で切り落としたという。

 

 そのことを伝え聞き――

 今度は、

 ――北条時政

 が、激高をした――

 

 そして――

 一族を引き連れ、鎌倉を去り――

 かつて自分たちが拠点としていた伊豆半島の地へ引きこもった――

 

 ……

 

 ……

 

 以上が――

 事件の概略である。

 

 ――北条時政

 が、

 ――源頼朝

 の命を受け――

 一千騎の兵を率いて京の都へ向かう――

  3 年前のことである。

 

 ……

 

 ……

 

 『物語』

何者なのか

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 は――

 わかりにくい。

 

 ――鎌倉幕府・初代将軍

 である、

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の舅――

 という点を重く視すぎると――

 

 ――鎌倉幕府・創設の功臣

 と誤解をする。

 

 ――鎌倉幕府・創設の功臣

 を挙げよ――

 といわれれば――

 大半の者は、まず、

 ――源義経(みなもとのよしつね)

 と答えるであろう。

 

 ――鎌倉幕府・二代執権

 である、

 ――北条義時(ほうじょうよしとき)

 の父親――

 という点を重く視すぎると――

 

 ――鎌倉幕府・執権政治の創始者

 と誤解をする。

 

 ――鎌倉幕府・執権政治の創始者

 は誰か――

 と問われれば――

 ――北条義時

 と答える者が大半であろう。

 

 では――

 

 ――北条時政

 とは何者なのか。

 

 ……

 

 ……

 

 異論の噴出を恐れずにいえば――

 

 やはり――

 

 ――鎌倉幕府・初代京都守護

 なのである。

 

 ――北条時政

 は――

 おそらくは無意識に、

 ――京都守護

 の役職を定めた。

 

 その役職は――

 ――承久の乱

 の後――

 ――六波羅探題(ろくはらたんだい)

 へと受け継がれ――

 日本列島の統治機構としての、

 ――鎌倉幕府

 に、1つの色を付けた。

 

 ――朝廷の権威を活かして幕府の権力を保つ。

 という仕組みである。

 

 これを、

 ――北条時政

 が自身で考え出したのかどうかは、ともかく――

 

 実際に――

 それを創り上げ――

 それを動かし始めたのは――

 ――北条時政

 であった。

 

 ――六波羅探題

 を欠く、

 ――鎌倉幕府

 など――

 想像さえも難しい。

 

 が――

 

 この、

 ――鎌倉幕府・初代京都守護

 である、

 ――北条時政

 を重く視すぎると――

 

 やはり――

 誤解をする。

 

 ――北条時政

 が、京の都に在って――

 ――朝廷

 に向き合っていた期間は――

 僅か四か月に過ぎない。

 

 加えて――

 

 ――北条時政

 が――

 鎌倉から京の都へ赴く前に起こっていた事件の転帰を踏まえれば――

 

 ――鎌倉幕府・初代京都守護

 としての、

 ――北条時政

 も、また――

 仮面の1つといえる。

 

 むしろ――

 ますます、

 ――北条時政

 のことが――

 わからなくなる。

 

 ……

 

 ……

 

 ――北条時政

 とは何者なのか。

 

 ……

 

 ……

 

 『物語』

見事な去り際

 ――無骨にして律儀――

 であるだけでなく――

 なぜか、

 ――朝廷

 の政権の中枢に人脈を持っていたために――

 

 ――北条時政(ほうじょうときまさ)

 は、歴史の表舞台へ躍り出かかることができた。

 

 が――

 あくまでも、躍り出かかっただけで――

 躍り出るまでには至らなかった。

 

 ――北条時政

 が、京の都に入って、およそ四か月が過ぎた頃――

 

 ――北条時政

 に従って京の都に入っていた者が――

 腕力に物をいわせて財産や土地を奪う事件が起きた。

 

 ――田舎者の乱暴狼藉

 が――

 実際に起こってしまったのである。

 

 ――北条時政

 の決断は、迅速であった。

 

 直ちに辞意を示し――

 

 主君、

 ――源頼朝(みなもとのよりとも)

 の義弟に当たる公家を自分の後任に据え――

 自分は家来たちを連れて鎌倉へ戻ったのである。

 

 以後――

 まるで謹慎でもするかのように――

 表立った政治活動を控えた。

 

 まさに、

 ――見事な去り際

 というほかはない。

 

 一千騎の兵を率いて京の都に入り――

 前代未聞の、

 ――京都守護

 という役割を、たった四か月ほどで創り出し――

 その役割を軌道に乗せ――

 

 家来が不祥事を起こすと――

 直ちに辞意を示し――

 後任へ引き継いでみせた。

 

 当時、

 ――朝廷

 で実権を握っていた、

 ――後白河法皇(ごしらかわほうおう)

 も――

 ――北条時政

 の帰郷は甚(いた)く惜しんだという。

 

 その惜別は――

 穿った見方をすれば――

 ――源頼朝を抑え込む手駒を僅か四か月で失ってしまった。

 との悲嘆であったかもしれないが――

 

 普通に考えれば――

 ――もう少し長く付き合ってみたい男であった。

 との落胆であろう。

 

 それだけの魅力が、

 ――北条時政

 の人柄には備わっていた――

 ということではなかったか。

 

 ……

 

 ……

 

 『物語』