僕が生まれて初めて読んだ、
――歴史
の本が、
――源頼朝(みなもとのよりとも)
の子ども向けの伝記であったことは――
8月1日以降の『道草日記』で――
繰り返し述べてきた。
――源頼朝
の、
――物語
の主役は――
もちろん、
――源頼朝
である。
では――
悪役は、誰か。
……
……
その候補は、様々に挙げることができる。
例えば、
――源平の争乱
が収まった後の鎌倉方の内輪揉めの顛末を踏まえれば――
あえて、
――源義経(みなもとのよしつね)
を悪役に挙げることもできる。
とはいえ――
素直に考えれば――
それは、
――平清盛(たいらのきよもり)
であろう。
……
……
――平清盛
と、
――源頼朝
との取り合わせで――
僕が真っ先に思い浮かべるのは――
次の台詞である。
――頼朝(よりとも)が首を刎(は)ね、わが墓の前に懸くべし。
有名な、
――平家物語
の一節である。
――平清盛
が、自らの臨終に際し――
子や孫や家臣たちを集めて語り伝えた――
とされる遺言である。
もちろん――
――平清盛
は、必ずしも、
――平家物語
の悪役――
ではない。
むしろ――
主役である。
――平家物語
は、
――平清盛
の一族の栄華と没落とを紡いでいる。
が――
この遺言の件(くだり)だけに着目をすれば――
――平清盛
は――
まさに悪役である。
いくら反乱軍の頭目とはいえ――
その首を刎(は)ねて自らの墓前に供えよ――
と命じるのは――
仏の教えを踏みにじっているばかりでなく――
武士としての道をも――あるいは、人としての道をも――踏み外している――
それだけ、
――源頼朝
への怨念が極まっていた――
ということの描写である。
たしかに――
それまでの経緯を踏まえれば――
――平清盛
の無念は――
いかばかりであったか――
好敵手、
――源義朝(みなもとのよしとも)
を討ち破った後――
その嫡男で、まだ10代前半であった、
――源頼朝
を首尾よく捕らえた際に――
あえて助命の嘆願を受け入れ、死刑ではなく、流刑に処した――
その経緯を踏まえれば――
――頼朝が首を刎ね、わが墓の前に懸くべし。
と喚いた気持ちも――
わからないではない。
が――
それは――
所詮は、強がりであった。
人としての弱さである。
もし、
――平家物語
の主役が、
――平清盛
であれば――
そんな弱さを曝け出すことはなかったろう。
例えば――
――かくなるは前世の悪行か。せんかたなし。
などと呟いて――
泰然と運命を受け入れたのではないか。
もちろん――
この呟きも強がりには違いないが――
――頼朝が首を刎ね、わが墓の前に懸くべし。
よりは、遥かに上品である。
かかる下劣な台詞を喚く
――人物
であれば――
紛れもなく――
悪役といわざるをえない。
『物語』