「医師の免許を持っています」
というと、
――では、さぞかし医学知識が豊富でいらっしゃるのでしょうね。
と、いわれることがある。
そんなことはない。
――微々たるもの――
とまではいわぬが、
――かなり制限がかかっている――
とはいえる。
たしかに――
素人よりは豊富であろう。
だからこそ、免許を取得できたのだ。
が――
実際のところは、
――五十歩百歩――
だと思っている。
医学知識に関して、医師と医師でない人との違いを、敢えて指摘するならば――
それは、
――いかに自分の医学知識が不十分であるかを痛感しているか否か。
である。
医学知識の絶対量というものを想定できると仮定した場合に――
その絶対量に比べれば、人が脳に蓄えられる知識量など、とるに足らぬ。
そして――
医師は医学知識を、そのキャパシティをフルに使って、蓄えているわけではない。
医学知識の絶対量に相応の制限がかかるのは、当然の帰結といってよい。
さらにいえば――
医師と医師でない人との違いの中で、最も深刻なものは、
――いかに現代医学が未発達であるかを痛感しているか否か。
である。
どんなにシャカリキに勉強をしても、医学知識は不十分なのだ。
なぜならば――
肝心の医学が、まだ十分に発達しきっていないからである。
――医師は医学知識が豊富だ。
というのは、あくまで比較の問題である。