人前で話をするのは難しい――
何を話したら良いのか、いつも難渋をする――
などと書くと――
素の僕を知っている人は訝(いぶか)るかもしれない。
――何いってやがる! いつもベラベラ喋ってるじゃねえか!
というわけだ。
たしかに、20代の頃は、そうだった。
生来、口は達者なほうであり――
何か喋って場をつなぐということを、大して厭わずに引き受けて来たからである。
(人前で話をするなんて、カンタン、カンタン!)
などと思っていた。
が――
場が、つながれていると思っていたのは――
僕だけだったかもしれない。
場というものは、ただ喋ればつながる、というものではない。
喋る内容によっては、場のつながりを、ぶった切ってしまうことも、しばしばだ。
話題を誤り、聴衆を白けさせることなど、珍しくもない。
当意即妙な話題を選び、ごく自然な口調で語り出してこそ――
場は、つながれるのである。
では、具体的に、どんな話題を選ぶべきか――
そこで、いつも迷うのだ。
迷って、迷って、迷い続けた挙げ句に、場をぶった切って聴衆を白けさせる――
というのが最悪のシナリオである。
とはいえ――
迷うことが常にいけないかというと、そうでもなく――
むしろ、迷わないときのほうが危険だったりする。
――これはウケる!
と思って意気込んで話し――
大失敗に終わるケースもある。
ギリギリまで迷いを引きずり――
語り口に迷いが滲み出て――
その結果、味のある話になる――
ということもある。
計算するだけ、損なのだ。