83歳の奥さんが、86歳の旦那さんを嫌がって――
ある日、突然、別居生活を始めるということが――
あったそうである。
コミュニケーション不全が原因らしい。
旦那さんは耳が遠くなった。
が、補聴器の類いを一切、受け付けない。
耳が遠いので、何をいっているのかが、わからない。
人は、自分の口が発する言葉を聞き取ってこそ、正確に話すことができる。
聴力の衰えを受け入れない旦那さん――
おそらくは、わがままなのであろう。
人は皆、老いる。
自然の摂理である。
老いて悟り、その摂理を受け入れる。
が――
わがままな人は、なかなか受け入れることができない。
そういうところに辟易として――
83歳の奥さんは、86歳の旦那さんを見限ったに違いない。
痛ましい話である。
見限った奥さんも――
見限られた旦那さんも――
痛々しいこと限りない。
八十路のことである。
せめて20年前ならば――
と思う。
が――
それは、第三者が求める手前勝手な慰めであろう。