マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

「負け犬の遠ぼえ」になる

 午後、JR上野駅で新幹線を待っていたら――
 若い男女がハイテンションでイチャついていた。

(よくやるよ、真っ昼間から――)
 と思ったのは、半分くらいはヒガミだったかもしれない。

 微笑ましいと思う反面――
 ちょっとばかりは腹立たしかったので――
 二人のことは、あまりみないようにしていた。

 やがて、新幹線がやってきて――
 僕らの前で、扉が開いた。

「じゃあね」
 といって――
 女のほうだけが乗り込んだ。

(あれ?)
 と思って、よくみると――
 たしかに男は手ぶらである。

(エンレンか)
 と思った。

 遠距離恋愛のことである。

 車両は指定席だった。

 女は、たまたま僕の隣の座席に座った。
 僕が窓側、女が通路側である。

 女は満面の笑みで、ホームの男に向かって、

 ――バイバイ!

 と、盛んに手を振っている。

 男も、やはり盛んに手を振り、女の想いに答えていた。

(付き合って、まだ間もないんだろうな)
 と思った。

 きっと、何をやっても楽しい頃なのである。

 列車が走り出すと――
 男は一緒になってホームを駆け出した。

 そんな男に向かって、女は、なおも盛んに手を振っている。

(青春映画かよ)
 と思った。

 ここまでくると、食傷ぎみである。

(いい加減にしろよ)
 と思い、多少、無遠慮に女の姿を睨んでやると――
 その下腹部は大きく膨れていた。

 今、流行(はやり)の「ポッコリお腹」などでは決してない。

 妊娠である。

(やられた)
 と思った。

 妊娠までいって――
 しかも女性だけが新幹線に乗ったということは――
 出産のための里帰りであろうか。

 それは、ともかく――

 身重で「青春映画」ができるなら――
 何もいうことはない。

 見事である。

 何をいっても「負け犬の遠ぼえ」になる。