僕が小説に込めたいことは、別世界の奥行きである。
キーワードが2つあるのだ。
――別世界
と、
――奥行き
とである。
「別世界」というのは「異世界」といってもよい。
――あ、これは僕らの世界の話ではないな。
と感じさせるような世界である。
「奥行き」というのは、その世界がもつ風情や情緒である。
あるいは、その世界に暮らす人々の汗や息づかいや涙や笑いである。
――こんな違った世界でも、僕らと同じように暮らしているんだな。
という一種の安心感だ。
が――
ひと度、読者の立場にたってみると、
(これは大変だ)
と思う。
そのようなものが込められた小説を味わうには、心に相当な余裕がないとダメだろうと思う。
多くに読者は、例えば、ハラハラドキドキの展開や奇想天外な結末を期待したりするわけである。
あいにく――
そのようなことへの興味は、僕にはない。
展開は、ゆったりしていなければイヤだ。
結末は、予想通りでなければイヤだ。
つまり、心に余裕がないと楽しめないような小説でないとイヤだ、ということなのかもしれない。
そういえば――
僕が一生懸命に小説を読んでいたのは、時間に余裕のある10代であった。
思春期なので、心に余裕はないはずだったが、時間の余裕が圧倒的であったので、気にならなかったようである。
最近、あの頃の小説体験が、やけに懐かしい。