昨年に株価が世界的に大暴落するまでは、
――得をしない。
を、
――損をしている。
と、よみかえる人が少なくなかったようなのですね。
ひところは、
――おカネを銀行に預けているのは損である。
という話を、よく耳にしました。
つまり――
おカネというものは、預金をしているだけでは、ほとんど増えない――株などに投資をし、どんどん増やすほうがいい――
そういう話です。
が――
これはウソだったと思うのです。
たしかに、株に投資をすれば、得をするかもしれません。
預金をしているだけでは、得をしないかもしれない――
が、「得するかもしれない」ということは、それだけリスクを負っているということです。
少なくともおカネに関しては、そうでしょう。
誰だっておカネを増やすことには熱心になれるのですから――
ひとたびおカネを増やそうと決心したら、必ずや競争に巻き込まれる――
競争には常にリスクが伴う――
つまり、「得をするかもしれない」というのは「損をするかもしれない」と背中合わせだったのです。
裏を返せば、「得をしない」は「損をしない」と背中合わせでしょう。
おカネを増やすことに無頓着であれば、競争に巻き込まれることもなく――
ひいては、おカネを減らすリスクも薄まるのです。
要するに、「得をしない」は「損をしている」ではなく――
「損もしない」ということなのですね。
僕は経済学の話をしたいのではありません。
経済学の理屈に照らせば、僕のいっていることは、ちゃんちゃらおかしいのかもしれない――
僕がいいたいことは、安心して生きていく上での要領です。
損得の真理といってもいい――
得をしようと思ったら、損をするリスクも同時に考えなければならない――心が休まる日々はない――
得をすることを諦めたら、損をすることも、ある程度は考えなくてよい――心を休めることができる――
そういうことです。
昨年の世界的な株価暴落をみて――
改めて実感をしました。