被災をして良かったと心から思えるようなことはないのですが――
強いていえば、
――おカネの限界を実感できた。
ということでしょうか。
津波が運んできた瓦礫に囲まれて思ったことは、
(今はカネは何の役にも立たない)
ということでした。
飲み物も食べ物も着る物も満足にない中で――
財布に1万円札が入っていたのですが、
(これじゃあ、意味がない)
と痛感をするのに、ほとんど時間は要りませんでした。
1万円札は、ふだんなら頼もしいのですが――
その頼もしさは、1万円札それ自体にはなくて――
貨幣制度を支えるシステムにあるのですよね。
子供の頃、学校の社会の授業で習ったことです。
そこで習った知識を、僕は、ほとんど実感できておりませんでした――
今回、被災をして飲み物や食べ物や着る物に困窮するまでは――
そのことに気付けたということが――
とても良かったと思っています。
どうってことのない些細なことですが……。