朝日新聞の週末別冊版に『フロントランナー』という連載記事があって――
主にビジネスの世界で前衛的に活躍されている人たちが紹介されています。
その『フロントランナー』で――
たしか先々月のことだったと思うのですが――
國中均さんという方が紹介されていました。
土曜の朝に、ふと朝日新聞の週末別冊版を手に取って――
(あ、この人が國中さんなんだ……!)
と――
僕は感じ入りました。
ちょっと想像していたお顔立ちと違っていたからです。
*
「はやぶさ」というのは、多くの方がご存じと思いますが――
そのプロジェクトの名前でもあります。
僕が國中さんのことを存じ上げたのは――
作家の竹内薫さんが今年の5月に出版されたビジネス書『失敗が教えてくれること』(総合法令出版)の監修に携わっていたときです。
國中さんは「はやぶさ」でエンジン開発を担当されていました。
はやぶさは、宇宙を航行中に深刻なエンジン・トラブルに見舞われました。
その窮地を救ったのが國中さんのクロス回路であったと、竹内さんは指摘されています。
クロス回路とは、停止してしまった2基のエンジンを組み合わせて1基分の推進力を引き出す仕組みのことです。
はやぶさが宇宙で窮地に陥って初めて、「実は……」と國中さんから聞かされた、と――
ここに「はやぶさ」がプロジェクトとして失敗しなかった要因を――
竹内さんは見出していらっしゃいます。
僕も、まったく同感で――
監修の立場で賛意を示しました。
この「クロス回路」のエピソードは、なかなかに印象深く――
ずっと僕の頭の片隅に残っていました。
(まるで『ヤマト』の「真田さん」じゃないか)
と思ったのです。
主人公の古代進から「真田さん」と呼ばれて頼りにされる青年です。
長身の痩身で、眼光は鋭く、
――こんなこともあろうかと……。
が口癖になっていて――
自分たちの乗艦するヤマトが窮地に陥ったときには――
皆を「あっ」と言わせる新技術を披露し、ヤマトを見事に窮地から救ってみせるのです。
そんな『ヤマト』の残像を引きずりながら――
僕は朝日新聞の『フロントランナー』に目を通しました。
(あ、この人が國中さんなんだ……!)
と感じ入ったわけは――
もっと地味で武骨そうなお顔立ちを想像していたからです。
『ヤマト』でいえば機関長の徳川彦左衛門のような――
(「真田さん」みたいな人が外見まで「真田さん」なわけはない!)
と信じていたのですね。
(虚構は虚構、現実は現実である!)
と――
実際のところ、掲載されていたお顔の写真を拝見する限り――
國中さんの印象は、『ヤマト』の真田志郎とは、だいぶ違っていました。
が――
徳川彦左衛門とも違っていた(苦笑
國中さんは、僕が知る限り――虚構・現実を問わず――他のいかなる人物にも似ていらっしゃいません。
お歳は54だそうですが――
さながらベンチャー企業の若手リーダー格の雰囲気で――
重責を重責と感じさせない柔和な笑顔が印象的でした。
超一流の仕事を成し遂げる人の顔は――
なぜか決まって誰にも似ていません。
國中さんも例外ではありませんでした。