僕は10代で物理学に惹かれたのですが――
その最大の理由は、
――単純さ
です。
言い換えると、
――強引さ
となりましょうか。
例えば――
流体中の物体が受ける浮力は、その物体が下面と上面とで受ける圧力の差に起因すると考えるのですが――
そうした考察の結論だけを取り出すと、
――浮力は物体が押しのけている分量の流体にかかる重力に等しい。
となるのです。
これは、いわゆる「アルキメデスの原理」と呼ばれる浮力の原理ですが――
この原理を記述するのに、本来は「物体が押しのけている分量の流体」という概念を持ち出す必要はないはずです。
けれども、敢えて持ち出す――
なぜなら――
そのほうが、より単純に記述できるからです。
――単純な記述のほうが、単純でない記述よりも、素晴らしいだろう。
という基本思想が、そこには潜んでいるのですね。
簡単にいえば、
――単純こそ素晴らしい。
ということです。
それは、ある種の強引さといえます。
実際には、世の中の仕組みは、そんなに単純ではないのですから――
少なくとも、人間のヤワな知性には恐ろしいまでに複雑にみえるのですから――
その複雑さを、
――えいや!
で削ぎ落としてしまう――
そこが物理学の魅力の一つであることは、ほぼ間違いないでしょう。
10代の血気盛んな若者には、そこが清々しかったのですね。