被験者である“教師”は、演技者である“生徒”が誤答を繰り返す度に、“電撃”の強度を上げていくのか――
そして――
その“電撃”に応じて、“生徒”が迫真の演技で苦しみ悶える時――
被験者である“教師”は、“電撃”の強度をどこまで上げていくのか――例えば、致死的な強度まで上げていくのか――
……
……
この実験が行われる前に――
その実験の企画・立案を主導した者らは、自分らが所属をする大学の学生や教職員らに対し、結果の予測を求めたという。
多くの者たちが、
――“電撃”の強度を上げるような“教師”は殆ど存在しない。
と予測をした。
実際は、どうであったか。
……
……
全体の 60 % ほどが、“電撃”を致死的な強度まで上げた。
衝撃の結果であった。
……
……
このことは――
次のように説き明かせる。
被験者らは、
――密室
の環境の“異常”性が齎(もたら)す孤立感によって――
その実験の管理者らが示した権威に、服従をしやすくなった――
……
……
ただし――
この実験の主導者らは――
被験者らが服従をしやすくなった要因としては、
――密室
ではなく、
――権威
が重要である――
と主張をした。
被験者である“教師”らは――
突出をした権威の持ち主――この実験の管理者、あるいは、それを装った者――が、
――電撃を加え続けよ。
と指示を出し――
かつ、
――責任は私にある。
と言明を行ったことで――
それなりの葛藤は経たものの、最終的には“電撃”を致死的な強度まで上げていった――
との解釈であった。
……
……
その解釈で矛盾はない。
が――
その“突出をした権威”が、被験者の思考を制し、服従を強いるには、
――密室
という環境の“異常”性が必要であった――
とはいえる。
精確には、
――部外者がいない密室
である。
もし――
被験者が身を置く、
――環境
が、
――部外者のいない密室
ではなく――
例えば――
傍らに部外者の弁護士や報道記者ら――あるいは、それらの役割を担う演技者ら――が立ち会っているような環境であれば――
そして、それら部外者の人数が十分に多ければ――
結果は異なるはずだ。
『随に――』