マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

心理学は観察に徹するしかないのか(8)

 被験者である“教師”は、演技者である“生徒”が誤答を繰り返す度に、“電撃”の強度を上げていくのか――

 そして――

 その“電撃”に応じて、“生徒”が迫真の演技で苦しみ悶える時――

 被験者である“教師”は、“電撃”の強度をどこまで上げていくのか――例えば、致死的な強度まで上げていくのか――

 

 ……

 

 ……

 

 この実験が行われる前に――

 その実験の企画・立案を主導した者らは、自分らが所属をする大学の学生や教職員らに対し、結果の予測を求めたという。

 

 多くの者たちが、

 ――“電撃”の強度を上げるような“教師”は殆ど存在しない。

 と予測をした。

 

 実際は、どうであったか。

 

 ……

 

 ……

 

 全体の 60 % ほどが、“電撃”を致死的な強度まで上げた。

 

 衝撃の結果であった。

 

 ……

 

 ……

 

 このことは――

 次のように説き明かせる。

 

 被験者らは、

 ――密室

 の環境の“異常”性が齎(もたら)す孤立感によって――

 その実験の管理者らが示した権威に、服従をしやすくなった――

 

 ……

 

 ……

 

 ただし――

 この実験の主導者らは――

 被験者らが服従をしやすくなった要因としては、

 ――密室

 ではなく、

 ――権威

 が重要である――

 と主張をした。

 

 被験者である“教師”らは――

 突出をした権威の持ち主――この実験の管理者、あるいは、それを装った者――が、

 ――電撃を加え続けよ。

 と指示を出し――

 かつ、

 ――責任は私にある。

 と言明を行ったことで――

 それなりの葛藤は経たものの、最終的には“電撃”を致死的な強度まで上げていった――

 との解釈であった。

 

 ……

 

 ……

 

 その解釈で矛盾はない。

 

 が――

 その“突出をした権威”が、被験者の思考を制し、服従を強いるには、

 ――密室

 という環境の“異常”性が必要であった――

 とはいえる。

 

 精確には、

 ――部外者がいない密室

 である。

 

 もし――

 被験者が身を置く、

 ――環境

 が、

 ――部外者のいない密室

 ではなく――

 例えば――

 傍らに部外者の弁護士や報道記者ら――あるいは、それらの役割を担う演技者ら――が立ち会っているような環境であれば――

 そして、それら部外者の人数が十分に多ければ――

 

 結果は異なるはずだ。

 

 『随に――』