人は、どういうときに達成感を覚えるのか――
やりたいことをやったときにか――いや、そうではない――
やるべきをやったときに人は達成感を覚え、充足感を噛み締めるのだ――
そういう考え方があるそうです。
さる高名な作家の御指摘だったと記憶しておりますが――
記憶が曖昧な上に、確たる資料もないので、敢えて御名前は出しません。
(なるほどな)
と思いました。
やりたいことをやっているときというのは、過程に味わいがあるのであって、結果に旨味はないかもしれません。
反対に、やるべきことをやっているときというのは、過程には味わいがないかもしれませんが、結果には旨味がある。
そういうことです。
最近、よく、
――やりたいことをやろう!
という掛け声を耳にします。
たしかに、今風で、おシャレで、威勢の良い掛け声なのですが――
やりたいことをやった後に覚えるかもしれない虚脱感には十分に注意が必要でしょう。
僕自身のことをいえば――
本業の文筆はやりたいことで、副業の診療はやるべきことですが――
正直なところ、どちらで充足感を噛み締めているかといえば、たしかに副業の診療のほうですね。
本業の文筆の場合は、やっていて夢中にはなれるのですが――
やった後の虚脱感は後味の悪いものだったりします。
書き終わった小説のことを、いつまでもウダウダと考えたりしましてね。
だからといって、文筆をやめる気はないですよ。
僕は、達成感や充足感だけでは、とても生きていけないと思うのです。