―― あらざらむ この世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな
平安の女流歌人・和泉式部の歌です。
百人一首に収められています。
現代語訳は――
一般的な解釈によれば、
――私は間もなく死ぬようだ。あの世への思い出に、もう一度あなたと会いたい。
です。
なかなかに叙情的な歌ですね。
思い詰めた若い女の情念のようなものが伝わってきます。
が――
この歌を、和泉式部は最晩年に詠んだとされています。
60歳くらいで亡くなったと考えられていますから――
見事なものです。
体は老いても、心は熱く滾(たぎ)らせていたのですね。
*
和泉式部の「あらざらむ」を突然に思い出したのは――
昨夜、NHKの『歴史秘話ヒストリア』をみたからなのです。
この番組は、松平定知さんの進行でお馴染みだった『その時 歴史が動いた』の後継番組で――
『その時』とは違って、かなり軟派な印象を与える歴史番組なのですが――
おそらく、女性の視聴が意識された作りになっています――いわゆる「歴女」ですね。
「歴女」というのは――
「歴史好きの女性」という意味ですよ(笑
ここ5、6年で急激に増えてきたそうですが――
ところが――
歴女の皆さんの関心というのは、もっぱら戦国大名に向けられているようです――とくにイケメン風に脚色された現代人風の戦国大名に――
よって――
和泉式部の生涯をテーマに据えたのでは、ちょっと肩すかしになったかもしれません。
とはいえ――
番組の狙いとしては正鵠を射ていると思います。
和泉式部は恋の歌で認められた歌人です。
実生活でも何度かスキャンダラスに浮き名を流しています。
その生涯を追いかけてみると――
たぶん多くの女性が、
――あ、いるいる、こういう人!
と合点するか、
――わあ、まるで私みたいだ~。
と納得するかのどちらかです(笑
裏を返すと――
和泉式部の生き方というのは、現代社会の視点からでも、十分に解釈できてしまう――
ということですね。
だからこそ、歴女の皆さんにも、是非みてもらいたいと思うのですよ。
歴史の醍醐味は、戦国大名の生き様には、どちらかというと、
――ない。
といえましょう。
戦国時代の社会情勢が、現代とは違いすぎるからです。
現代の社会情勢と似ている時代のほうが、より深く面白いのですよ。
平安時代の社会情勢は――とくに貴族階級の社会情勢は――まあ、似ていますからね。
少なくとも、暮らしの身近に戦争がないという点においては――