2011年の東日本大震災のあと――
すこぶる評判が悪くなった言葉に、
――想定外
というのがありますね。
テレビ番組のコメントなどで、
――もう「想定外」という言葉は聞きたくない!
と、やや感情的に吐露されることも珍しくありません。
その気持ちは、よくわかるのですが――
この「想定外」が本当に悪い言葉なのかどうかについては――
冷静に判断をする必要があります。
事実と論理とに基づき、意味のある想定がなされている場合の「想定外」が――
いたずらに感情的な非難の対象になるのは、残念なことです。
なぜならば――
無意味な想定がなされている場合の「想定内」には、何ら意味を見いだせないからです。
話をわかりやすくするために――
津波を例にとりましょう。
ある沿岸では――
最大3mの津波が到来すると想定されていたとします。
ある日、大地震が起こって――
10mの津波が到来しました。
との議論が巻き起こるのは――
必ずしも非科学的ではありません。
たしかに、300mの津波は、人類史上、一度も確認されていないと思いますが――
だからといって、科学的に、まったくありえないとは言い切れません。
人類の歴史に比べ、地球の歴史は、文字通り、桁違いに長いのです。
人類が誕生する以前には、300mの津波が到来している可能性は誰にも否定できません。
よって、
――300mの津波の到来
を想定することはできます。
が――
この想定に意味はあるでしょうか。
300mの津波の到来に備えて――
僕らは、何か有効な対策を打てるでしょうか。
高さ300mの堤防を築く?
300mの津波が及ばない地域への避難を計画する?
どれも実現可能とは思えません。
「想定」には、「想定内」と「想定外」とだけがあるのではないのです。
――想定可
と、
――想定不可
ともあります。
「想定可」の想定には、常に意味を見いだせます。
「想定可」の「想定外」は、甘んじて受け入れざるをえません。
一方、無意味な想定は、「想定不可」として退ける必要があります。
「想定不可」の「想定内」には、何ら意味を見いだせません。