幕末の志士・高杉晋作は――
辞世の句として、以下の言葉を残したと伝えられています。
――おもしろきこともなき世をおもしろく
様々な観点から味わい深い句と思いますが――
この句を――
高杉は文字で残したわけではなかったので――
「こともなき世を」は「こともなき世に」であったようだとか――
そもそも辞世の句ではなかったらしいとか――
諸説あるそうです。
とはいえ――
この言葉――
高杉の人生を敷衍した上で、あらためて口ずさむと――
やはり、
(辞世の句であったに違いない)
と思いたくなります。
*
高杉晋作は、幕末動乱期の直前に、長州(山口県)で生まれ育ちました。
父も祖父も藩(地方政府)の要職を務めていたそうで――
家柄は良かったようです。
同郷の思想家・吉田松陰に師事――その教えを踏まえ――
幕府(中央政府)が、海外の圧力に対処しきれずに国論をまとめかねたのをみて――
新たな中央政府の樹立を志します。
長州藩の与論を幕府打倒にまとめあげ、西洋式の軍隊を編成――
攻め寄せてきた幕府の軍隊を迎え撃ちます。
その戦争のさなかに、持病の結核が悪化――
幕府の軍隊が撤退して間もなく、満27歳の若さで、この世を去ります。
ところで――
*
冒頭の句は上の句で――
これに下の句が継がれているのですね。
――すみなしものは心なりけり(住みなしたものは心であることだ)
高杉の最期を看取った尼僧の歌人・野村望東尼が継いだとされています。
さすがに歌人です。
上の句の趣旨を見事に受けています。
……
……
ふと考えました。
もし、マル太なら――
何と継ぐでしょうか。
……
……
もちろん、マル太は歌人ではないので――
急に上の句を振られて、きちんとした下の句で継げる自信はありません。
が――
もし十分に時間の猶予が与えられたなら――
次のように継ぎたいと思います。
――またの世にては、なほおもしろく(次の世では、さらにおもしろく)
高杉が抱いていたであろう不屈の探求心や不断の好奇心を詠み込めたつもりです。
あるいは――
高杉の100年ほど前を生きた米沢藩の主・上杉鷹山の残した有名な和歌の下の句に倣って、
――ならぬは人のなさぬなりけり(ならないのは人がなさないからである)
と継ぐのも面白い――
高杉の意志の強さや意欲の高さが伝わってくるようでしょう。
あるいは――
後世フランスの詩人ポール・ヴァレリーの有名な一節を意識して、
――さに生きよとなむ風の立ちぬる(そのように生きよと風が吹いたのである)
と継いでも面白いかもしれません。
高杉は諱(いみな)を「春風(はるかぜ)」といったそうですから――
「風の立ちぬる」は、まさに高杉の生涯を表すのに最適の句ではないでしょうか。
ただし、難点が一つ――
諱は、本人の父親や主君(主人)以外には、決して口にしてはならない名です。
あえて諱の一字を使うのは、高杉に失礼かもしれません。