マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

鳴かぬなら 殺してしまえ

 織田信長といえば、

  鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス

 の句を思い浮かべる人は少なくないでしょう。

 これは――
 豊臣秀吉徳川家康と比較して――
 織田信長の短気な人柄が端的に評されたものと考えられます。

 ちなみに――
 豊臣秀吉は、

  鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス

 で――
 徳川家康は、

  鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス

 です。

 なぜか現代仮名遣いで伝えられることが多いようです。

 これについては――
 後述します。

 ……

 ……

 豊臣秀吉徳川家康の句に先駆ける句としてみるときに――
 織田信長の、

  鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス

 は、ほとんどギャグといってもよいくらいの内容です。

 これでは――
 それほど織田信長ビイキではなくても――
 何となく織田信長のことが気の毒に思えます。

 とはいえ――

 これら三句は、江戸期に詠まれたものらしく――
 当時は徳川幕府の世ですから――
 当然ながら、徳川家康を称揚する趣旨が強かったものと想像できます。

 織田信長が三枚目の役回りを押し付けられている点は、よくわかります。

 ちなみに――

 織田信長の句は、

  鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス

 ではなく、

  鳴かぬなら 鳴かせるまでぞ ホトトギス

 のほうが適切だと――
 個人的には思っています。

 織田信長は、自分で見出した現実的および合理的な理由がない限りは、そんなに非道なことをしなかったようです。
 ホトトギスが鳴かないくらいのことでは、ただちにそれを斬って捨てるような激高をしなかったでしょう。

 ところで――

  鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス (織田信長

  鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス (豊臣秀吉

  鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス (徳川家康

 の三句は――
 なぜ現代仮名遣いで伝えられることが多いのでしょうか。

 ……

 ……

 実は――
 原典と思しき文献が処々にあって――
 今一つハッキリしないのだそうです。

 おそらくは、そのために――
 これら三句が現代人に紹介される場合には――
 現代仮名遣いで表記されることが多くなるのです。

 出典が曖昧であるので――
 本来ならば、取り上げられにくい逸話であるはずですが――

 あまりにも巧くできた話であるために――
 ついつい取り上げられてきたのでしょう。

 ちなみに――
 最も確かそうな原典に依拠して記すならば――
 三句は以下のようになります。

  鳴かずんば 殺して仕まへ ホトトギス (織田信長

  鳴かずとも 鳴かせて聞かふ ホトトギス (豊臣秀吉

  鳴かぬなら 鳴くとき聞かふ ホトトギス (徳川家康

 ついでに――
 織田信長の句について――
 マル太バージョンを同様に記すならば、

  鳴かずんば 鳴かせるまでぞ ホトトギス

 となります。