医者が精神を診る時――
何か特殊な文明の利器を用いることはない。
そのような利器が存在をしないからである。
精神を診る時――
例えば、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging, MRI)の技術は、概して無力である。
医者は――
ただ、ひたすらに、
――発言
を診て、
――行動
を診る。
ここでいう、
――診る
とは、
――病気や怪我があるかどうかを調べる。
という意味である。
さらにいえば、
――もし病気や怪我があるのなら、どんな病気や怪我があるのかを調べる。
という意味も含む。
――診る
は、単に、
――視る
に止(とど)まらず、
――聴く
も含む。
身体を診る時は、
――触る
や、
――嗅ぐ
も含むが――
精神を診る時は、たいていは、
――視る
と、
――聴く
とだけである。
特に、
――発言を聴く――
の比重が大きい。
――精神を診る――
とは、
――発言を聴く――
と同義とまではいえぬが――
それの多くの部分を占める。
発言を聴かずして――
精神を診ることはできぬ。
『随に――』