生まれて初めて長編小説を書いたのは――
高校3年の9月のことです。
14年前です。
原稿用紙500枚の大作でした。
スペース・オペラです。
太陽系の外側のほうで戦争をやっています。
西暦2491年だそうです。
この辺の設定が甘いですね。
*
高校3年の9月です。
大学入試センター試験(センター試験)の受験を、4ヶ月後に控えていました。
だから、夏休みなどは、朝から晩まで、センター試験の過去問(かこもん)を解きまくっていたはずです。
そんな生活に、すっかり飽きてしまって――
あるとき、突然、書き始めたのが、このスペース・オペラだったのです。
なぜ、よりによって500枚だったのでしょう?
50枚ぐらいで済ましておけばよかったものを――
だから――
僕は、その年の受験に失敗しております。
書き終えたのは9月23日でした。
『あとがき』の日付けが、そうなっています。
実は、その原稿――今も手元にあるのです。
先月、部屋の隅の段ボールをあさっていたら、出てきました。
いやあ、びっくり……。
よくぞ残ってくれていたものです。
友人の感想文まで残っていました。
この作品を、僕は友人にみせていたのです。
ワカバヤシくんといいます。
彼も――
センター試験を4ヶ月後に控えていました。
感想文の冒頭には、
――貴方の暢気に心から敬意を表します。
と書いてある。
その通りですね。
僕は、今では大学受験生を指導するほうですが――
もし、自分の受け持ちの受験生が、9月に500枚の長篇を書き始めたら、
――アホだ。
と思います。
間違いなく――
彼も同じことを思ったのでしょう。
そして、嘘がつけなかった――
愛すべき友人です。
悪態をつきつつ、寝る時間を削って、よんでくれたに違いありません。
そのせいか――
彼も、その年の受験に失敗します。
翌年、第一志望の大学に合格しましたけれど――
そんな彼の感想文があったからこそ、今の僕があるといってもいいでしょう。
彼の感想文は優れたものでした。
書き手を励ますものです。
今よんでも、そう思います。
14年後の作者が励まされています。