ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が閉幕しました。
――野球の世界一を決める大会
とのことでしたが――
本当に「世界一を決める」であったかは疑問です。
野球の場合、短期決戦で世界一を決めることには、原理的な困難が伴います。
野球は選手の心理を色濃く反映します。
例えば、同じ打者に同じ局面で同じコースに同じ速さのボールを投げたとしても、同じ結果に終わるとは限りません。
打者の心理状態によってホームランにもなり、スイング・アウトにもなるのです。
野球は、最後は純粋な心理戦となります。
今回のWBCで、韓国は日本に2回勝ち、1回負けました。
一見、2回の勝ちは辛勝で、1回の負けは完敗でしたが、心理戦の観点でみる限り、辛勝でも完敗でもなかったと感じます。
1回目の勝ちは、日本の油断や慢心がもたらした完勝――
2回目の勝ちは、韓国の心理的余裕がもたらした完勝――
3回目の負けは、日本の心理的切迫がもたらした惜敗――
そして――
これら3試合の野球が示したことは、
――日本は韓国よりも一段、高いレベルにある。
ということでした。
その見解は、韓国のキム・インシク監督も日本のイチロー選手も同じです。
他にも多くの専門家や野球通が、ごく自然に、そう感じたと思います。
が、3試合をみていない人――あるいは、みていても野球のことをよく知らない人には、実感できなかったことではないでしょうか。
2勝1敗という成績は、韓国が日本との心理戦にトータルで勝利したことは示唆しますが、韓国が日本よりも良質の野球を実践していたことは示唆しません。
3試合だから2勝1敗だったのであり、30試合であれば10勝20敗だったかもしれないのです。
よく、
――強いチームが勝つのではない。勝ったチームが強いのだ。
といいます。
たしかに、それが当てはまる競技もあるでしょう。
が、野球では、かえって虚しく響きます。
――相撲に勝って勝負に負ける。
といいますね。
野球も同じです。
――野球に勝って勝負に負ける。
は、いくらでもあるのです。
そして――
目の肥えたファンが望むのは、勝つ野球ではない――良質の野球なのです。
今回のWBCのような短期決戦で野球の世界一を決めるとき――
この特性が無視されている気がしてなりません。