人の紹介ほど難しいことはありません。
不特定多数の人に、
――この人は、こういう人ですよ。
と伝えることが、どれほど困難か――
真剣に取り組んだことがある人たちは皆、一様に口を揃えます。
当然、ウソを伝えてはいけません。
が、そこに注意するあまり、つまらないことしか伝えてもいけない。
ひと昔前、大学の同窓会の行事で、こんなことがありました。
著名な作家・評論家が御講演にみえたのです。
同窓生の幹事役のお一人が、
――今さら御紹介するまでもありませんが――
と断りを入れた上で、その方を御紹介されました。
それが実にユニークな御紹介で――
その方の少年時代の振る舞いや日常的な出来事にまで言及されていたのです。明らかに私人としての側面が含まれていました。
紹介が終わり、御本人が登壇されると――
開口一番、
――詳しい御紹介をありがとうございます。
とおっしゃる。
で、
――私の少年時代のことまで御紹介いただきまして――
と続きます。
そして、
――御聴衆の中には「なんで、そこまで?」と訝った方もおられると思いますが――実は、ただ今、私を御紹介して下さった方は――私の従弟でして、少年時代は「ちゃん付け」で呼び合った仲なんです。
会場が和やかな笑いに包まれました。
でも、これ――
御本人のフォローがなかったら、多くの聴衆にとっては、意味をなさなかったでしょうね。
よく知っている人を紹介するときでも、こうなのですから――
よく知らない人を紹介するときは、はなはだ頭が痛い。
だから、僕などは、
――自己紹介をお願いします。
と、あらかじめ御本人にお願いしておくのが一番だと思っています。
気のきいた方なら、その日の講演の内容に絡めた自己紹介をされるでしょう。顕彰のオンパレードになる心配も、まず、ありません。
邪道ですがね。