マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

「女だらけ」は怪しい

 間違えた。

 ――女だらけの死体ファイル

 ではなかった。

 ――女だけの死体ファイル

 だった。

 正式な書名は、『監察医が明かす――女だけの死体ファイル』(青春出版社、2005年)である。
 元東京都監察医務院長・上野正彦さんの著書だ。

 東京都監察医務院とは、全ての不自然死の遺体を検案し、解剖する組織だ。
 東京23区内を管轄している。

 上野さんは、1929年生まれ――
 遺体の検案や解剖を専門とする医師(監察医)として、東京都監察医務院に勤められ、1984年には院長に就任し、1989年に退官された。
 その後は、法医学評論家として、TVなどにも出演されている。

     *

 それにしても不思議だ。

 ――女だけの死体ファイル

 のほうが、

 ――女だらけの死体ファイル

 よりも一見、過激なのだが――
 どう考えても、「女だらけ」のほうが怪しい。

 ――ドキッ! 女だらけの水泳大会

 みたいなのを思い出すからであろう、きっと――

     *

 誤解のないように述べておく。

 本書は硬派である。

 ――ドキッ! 女だらけの――

 とは対極にあるといってよい。

 女性が被害者になったり加害者になったりした諸事件の顛末が、重厚かつ明解なタッチで描かれている。

 ミステリー小説にはない面白さがある。
 現場のもつ強みであろう。作りごとでないから、重みがある。
 もちろん、話をわかりやすくするために、多少の手は入れてあろうが――

 女性の死体や犯罪を通して語られる物語には、鬼気迫るものがある。
 男が描く女の物語ではあるが、頭でっかちの印象は与えぬ。

 女をみる男の目線が、人間全体にも深い洞察をもたらしている。