一昨日は父の命日だった。
来年が七回忌である。
だから、今年の法事は手短に済ませた。
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父は神経解剖学者だった。
長らく大学の教職にあり、病で在任中に亡くなった。
母がいうには――
父の同僚だった方々が、たまに僕の噂をするのだという。
息子は2年ほど前まで大学院で神経科学を専攻していたから、今も、そのつもりでいたら、最近は、わけのわからぬことをやっているらしい。息子は父に似なかった――という噂だという。
母が、だいぶ脚色していると思うのだが――
当たらずとも遠からず、である。
――わけのわからぬこと――
というのは――
母によれば――例えば、僕が学会などで実践的な研究には結びつきにくい議論にばかり好んで関わっていることを指すらしいのだが――
実際の僕は、もっと過激である。
例えば、読者が、すぐには受け入れがたいようなファンタシー小説などを、書きたがっていたりする。
まさに、
――わけのわからぬこと――
に勤(いそ)しんでいるといってよい。
が――
実は、僕自身は、父親に似なかったとは思っていない。
それは、父が残した書籍の山をみればわかる。
医学書や科学書の脇に――
歴史小説や伝奇小説、SF小説などが、ところ狭しと並べられている。
父が娯楽で親しんだ精神世界は、そのまま、僕が分筆で親しでいる精神世界でもある。
たしかに、父は自分でファンタシー小説を書いたりはしなかったようだが――
僕が今、紡ぎたがっている物語に十分に親しんでいたことは間違いない。
というよりも――
僕が医学や科学の世界から距離を置くことになったのは――
とりもなおさず、父の娯楽面の影響をモロに受けたからだと思っている。
親や子の公的な面にのみ着目すると、親子の類似を見落とすことがある。
公私の両面に着目すれば、どんな親子も、
――ああ、親子だな。
と納得できるものである――そう思っている。