人間はボロボロになりながら生きていく。
比喩ではない。
本当にボロボロになっていく。
昔は走れた距離が、走れなくなり――
昔は起きれた夜が、起きれなくなり――
昔は聞こえた音が、聞こえなくなり――
昔は見えた文字が、見えなくなり――
昔は動かせた腕が、動かせなくなり――
昔は話せた言葉が、話せなくなり――
昔は吸えた空気が、吸えなくなり――
昔は動いた心臓が、動かなくなり――
そうやって、人は死んでいく。
その行く末を直視するとき――
人は生の価値に目覚める。
生きるとは――
死すること――
などという。
そうではない。
死するとは――
生きること――
*
人生を四季になぞらえる。
10代、20代の春――
30代、40代の夏――
50代、60代の秋――
70代、80代の冬――
人生の四季に、春は二度と訪れない。
春が二度と訪れないことがわかっているとき――
人は、いかにして冬をすごすのか。
飢えや寒さに苛まれないように――
夏のうちから蓄える。
僕は今――
何を蓄えているだろうか。
それは――
やがて来る冬までに、とっておけるものだろうか。
考えなくてならない。
疑わなくてはならない。
それが生きるということだ。