個人が集団に埋没することで得られる安らぎというものがある。
例えば――
一般に、都会の雑踏は嫌われるけれども――
実は、巷間いわれているほどに嫌われているものでも、ないようだ。
というのは――
なかには、
――休日に人ごみの中を歩いているとホッとする。
と、告白する人もいるからである。
僕も、どちらかというと、ホッとするほうである。
自分の気持ちがゆったりとしているときなら――
人ごみのなかに消えてしまうのも、そんなに悪いことではない。
たしかに、大都市の朝の満員電車はイヤなものだが――
あれは、狭いところに閉じ込められているから、イヤなのであり――
周囲が他人で埋め尽くされているから、イヤなのではない。
人は、一人では生きられない。
社会に参加することで、安定した暮らしを得る。
ということは――
人間という存在は、
――しばらく一人になりたい。
と思うときよりは、
――ちょっと人ごみに紛れたい。
と思うときのほうが――
より自然な状態に近いのではなかろうか。