小説を書くのに適した精神状態というのがある。
どちらかというと――
餓(かつ)えた状態が望ましい。
精神が餓えた状態である。
欲求が満たされえない状態――
些細な不運に見舞われた状態――
あらゆる決断が裏目に出る状態――
要するに、
(なんだよ、ちくしょう!)
というような精神状態である。
こういうときは――
どうしても、心が内向きになる。
意識が内向するので、物語が心の泉から湧き出るのには適している。
しかし――
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作家は小説を書いているときには成長をしない、という。
小説を書くのに適した精神状態というのが、そういうものなら――
当然のことかもしれない。