昨夜、仕事の関係で来客があった。
仕事というのは、本業の文筆ではなく、副業の診療のほうである。
だから、医師として応対した。
先方の目的は、薬剤のPRであった。
――ぜひ我が社の薬剤を!
というものである。
それ自体は、珍しいことではない。
珍しかったのは、最初の挨拶でのことである。
初対面であった。
まずは、当たり障りのないところで、
「どちらの御出身ですか?」
という話になる。
僕は千葉県の出身だ。
だから、
「千葉です」
と答えると、先方も、
「千葉です」
という。
「奇遇ですね」
などと相槌を打っているうちに――
よくよく話をきいてみると――
なんと――
中学校の学区が隣同士であった。
「ええ? あそこの中学ですか?」
「そうです。近くに高校もありまして――」
「ああ、あの田んぼの真ん中にあった?」
「そうです。よくご存じで――」
「小学生の頃、よく遊びに行きましたから――」
以上は、宮城県で交わされた会話である。
千葉県からは、だいぶ離れている。
僕らは、しばしば安易に、
――世の中は狭い。
などというけれども――
たしかに、その通りだ。
陳腐な物言いにも真理が宿っている。