筆名は小説のタイトルの一部だと、僕は考えている。
読者は、小説のおおよその内容を、筆名から推し量るものだと――
筆名と内容とがミスマッチだと、読者としては、いまひとつ乗り気がしないように思う。
例えば、「稲村作左衛門」のような筆名で、パリジェンヌの恋物語はキツかろう――
時代物サスペンスなら、問題はないと思うが――
もちろん――
以上は極端な例である。
筆名は、通常は、さほどに個性的ではない。
物語の内容を厳しく制約してしまうような筆名は稀である。
が――
筆名には過去の著作群が覆い被さってくる。
例えば、「アンリ稲村」のような筆名であったとしても――
これで時代物サスペンスばかりを書いていた場合には、やはり、パリジェンヌの恋物語は難しかろう。
筆名には、著作の刻印が彫られていくのである。