救いのない話が好きである。
(いいのかよ、こんなんで……)
と思えるくらいに救いのない話が――
好きである。
救いのない話のほうが、心の内奥では、かえって癒されるような気がするのである。
*
沙村広明さんの『ブラッドハーレーの馬車』(太田出版、2008年)を読んだ。
沙村さんは『無限の住人』で有名な方である。
月刊アフタヌーン(講談社)で1994年から10年以上にわたって連載されている作品である。
が、この沙村さんの代表作すら、僕は読んでいなかった。
だから、沙村さんの紡ぐ物語については、ほとんど何も知らなかったに等しい。
唯一、重厚な画風だけが印象に残っていた。
それなのに――
今回、なぜ『ブラッドハーレーの馬車』を読む気になったかというと――
帯である。
そこには、
――かつてこれほど残酷な、
少女の運命があっただろうか
と書かれてあった。
――戦慄! 衝撃! 圧倒!
とも――
これは気になる。
少なくともマル太的には――
大いに気になってしまうのである。
で――
読んでみて――
たしかに、残酷である。
救いのない話である。
少女たちが次々と凄惨な目にあっていく。
やがて、その周辺にいる者たちも――
かなり憂鬱になった。
が、
(人間って、こんなもんだよな)
とも思わせる。
説得力がある。
人間は、所詮、残酷にできているのだ。
ご本人のあとがきが興味深い。
――最初は「エロい漫画にしよう」と心掛けたつもりが途中からどんどんエロシーンがなくなっていき、最終的には何がしたかったのか自分でも、もはやわからなくなってしまいました。
とある。
人間という存在を深く理解している人たちが、猥褻のことを正面から追求していくと――
なぜか、そんなに猥褻ではなくなっていくという傾向があるように思うのだが――
沙村さんは、その典型ではないか。