一時期、
(俳優になろうかな)
と思ったことがあります。
いや――
ホントに「一時期」です。
ほとんど「気の迷い」といってもいいレベル――
で――
そのときに思っていたことというのは、
(俳優やるなら、やっぱ悪役でしょ)
でした。
いわゆる二枚目俳優とかになることには、全然、興味がなくて――
ちょっと現実世界ではありえないような極悪人の役ばかりをやってみたいと思ったのです。
その動機の根源は――
たぶん、人間の性質への関心でした。
僕は、性善説よりは性悪説に、より説得力を覚えます。
人間の本性は悪に宿っていると思うのです。
つまり、
――人間とはこういうものだ。
ということを主張するのなら、俳優になって悪役を演じることが最も確実な突破口だ――
と思ったのです。
もちろん、芝居の悪役は高度に抽象化されています。
よって、現実の人間の悪からは程遠いものでしょう。
芝居の悪役は、人間の本性としての悪を表現するための、一つの口実にすぎません。
(だったら、俳優にこだわることはないか)
そのうちに――
そのように思うようになったのですね。
つまり、芝居に興味があるから俳優になりたいのではなく、悪役に興味があるから俳優になりたいのであれば――
別に、他の職業でも何とかなるのではないか――
例えば、小説家とか――
それで――
僕は小説を書いているのかもしれません。