筆力の根源というものが――
ときどき、よくわからなくなるのですよね。
筆力というのは、
――読み手を惹きつける文章を書く能力
くらいの意味です。
格調が高く、論旨は明快で、語彙も豊かな文章が、まったく読み手を惹きつけない――
そういうことが、それほど珍しくはありません。
そのような文章を書く人は、品性や教養や知識は優れているのですが、筆力には優れていない、と解釈することができます。
では、その筆力の根源は、いったい何なのか。
そう問われると、はたと困ってしまいます。
格調が高く、論旨は明快で、語彙も豊かでありながら、読み手を惹きつける文章というものは、いくらでも存在します。
同じように格調が高く、同じように論旨は明快で、同じように語彙も豊かな文章が――
なぜか、読み手を惹きつけるものと、そうでないものとに、別れてしまう――
そのことの説明が、どうにも巧くできません。
文章を書くセンスの有る無しに起因するといってしまえば、それまでですが――
では、そのセンスの本態とは、いったい何なのか。
リズム?
音楽性?
ともすれば――
そんな言葉で誤摩化したくなります(笑
文章のリズムとか音楽性とかいうものが、仮にあったとして――
読み手を惹きつけるかどうかは、その「リズム」や「音楽性」が一義的に優れているかどうかは、たぶん関係ないでしょう。
大切なのは、そうした「リズム」なり「音楽性なり」が、読み手に受け入れられやすいかどうかに、違いありません。
読み手が、自分の読んでいる箇所の数語先に期待するリズムや音楽性を、つねに先取りし続ける能力――
それが筆力なのかもしれません。