詞は、予定調和だけでは、人の心を動かしません。
例えば、歌謡曲の詞などをきくときに――
定型的な文句ばかりをきかされたら、すぐに飽きてしまうものです。
が――
小説は、予定調和だけでも、人の心を動かします。
例えば、探偵小説などをよむときに――
定型的な場面ばかりをよまされても、すぐに飽きてしまうとは限らない――
――定型的なのに飽きさせない。
という傾向は、TVドラマや映画では、さらに顕著です。
なぜでしょうか。
表現に、
――遊び
があるからです。
ここでいう「遊び」は、「幅」とか「乱れ」とか「誤差」などと呼び変えてもいいでしょう。
小説は詞に比べ、字数が多い――
そのぶん「遊び」が増えます。
この増えたぶんが、書き手の個性となって表れる――
そこに人を飽きさせない要素が含まれるのです。
TVドラマや映画では、小説に比べ、もっと複雑ですね。
脚本家の書いたものを、俳優さんがお芝居で表現をする――それを手助けするスタッフがいる――
「遊び」は、より重層的になります。
よって、どんなに定型的な場面であっても、そこには必ず人を飽きさせない要素が含まれている――
簡単には言い尽くせない趣きが含まれるのです。