僕は車の免許を隣県でとっています。
いわゆる合宿形式の教習を選んだのです。
夏休みのある日――
僕は、大きなカバンをもって自宅近くの指定された場所へ赴き――
迎えに来ていたマイクロ・バスに乗って、教習所のある隣県へ向かいました。
マイクロ・バスは途中で高速道路に乗りました。
車の運転など当然ながらしたことのなかった当時の僕にとって――
高速道路は、まるっきり非日常の世界でした。
巨大なトラックが目をむくようなスピードで走っている――
(恐い)
と思いました。
(あんなトラックに弾かれたら、ひとたまりもない)
と――
(こんな過酷なところを、いつか自分も運転できるようになるんだろうか)
僕には全く自信が持てませんでした。
(バスの運転手さんって、すごいな~)
そう思って、マイクロ・バスの運転席のほうをみると――
運転手さんの顔がバック・ミラーに映っていました。
細おもての髭づらで、40代ないし50代くらいの男性でした。
そのときに――
僕は、みてはいけないものをみてしまいました。
なんと、その運転手さん――
とても眠そう――
何度か瞼を閉じかけているではないですか。
(まさか!)
と思って、バック・ミラーを注察しました。
すると――
たしかに、瞼を閉じかけている――
十数秒間隔で1~2秒にわたって瞼を閉じているのです。
(死ぬ~~!)
と思いました。
生きた心地がしないとは、まさにこのこと――
そこからの道のりが果てしなく長く感じられたのは、いうまでもありません。
……
……
それから年月は過ぎ去って――
38歳の僕は高速道路を頻繁に運転するようになりました。
今では、すっかり慣れてしまい――
巨大なトラックが猛スピードで吹っ飛ばしていっても、どこ吹く風です。
あろうことに――
ときには睡魔に襲われ、目を閉じかけることがあります――あの日のマイクロ・バスの運転手さんのように――
が――
「死ぬ~~!」などとは思いません。
(おっと危ない。気を付けなきゃな……)
平然としたものです。
あの日のマイクロ・バスの運転手さんも――
きっと同じような心持ちだったのでしょう。