マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

本当は必要のないもの

 僕は10代の頃から、

 ――人類社会にとって、本当は必要のないもの

 に、いたく魅せられています。

「本当は必要のないもの」とは何か――
 例えば、娯楽ですね。

 プロ・スポーツ産業は、人類社会にとって、欠かすことのできない営みではありません。
 スポーツ観戦という娯楽がなくても、人々は十分に楽しく暮らしていけるでしょう。

 が――
 あれば、もっと楽しく暮らせる――

 この「あれば、もっと楽しく……」というのが――
 僕にとっては、とても大切なキーワードなのです。

 もう一つ例を挙げましょう。

 僕は、お酒が全く好きではなくて――
 家に一人でいるときなどは、絶対に晩酌などしないのですが――

 そんな僕が、なぜかウイスキー工場へ見学に行くのは好きなのです。

 ウイスキーは、品質を高く保つためには、北国の山あいの清流の水から製造する必要があるのだそうです。

 一方――
 そのような地は、寒冷でありながら、高湿でもあります。

 樽の中で蒸留酒を熟成させるには、そのような寒冷・高湿の気候が最適なのだそうです。

 そのために――
 ウイスキー工場というのは、ちょっと魅力的な立地を備えているのですね。

 簡単にいえば――
 敷地内でキャンプ生活が楽しめるような立地なのです。

 ウイスキーの製造の事情を知らない人にしてみたら、

 ――え~? なんで、こんなところでウイスキーなんか造ってるの~?

 と驚くのではないでしょうか。

 ウイスキーというのは、嗜好品です。
 嗜好品は、人に生老病死の営みには直には関与しません。

 仮にウイスキーの存在が消えてなくなっても、人類社会は(基本的には)何ら困りません。

 ましてや――
 僕個人は、晩酌すらしない人間です。

 ウイスキーを飲みたいなど、つゆも思わない――

 そんな僕にとって、ウイスキーは「本当は必要のないもの」の最たる例でしょう。

 それでも――
 魅せられているのですよね、ウイスキーに――
 正確には、ウイスキーの製造とその周辺で培われている文化とに魅せられている――

 もちろん、このことは――
 僕の暮らす現代・日本社会が、それだけ豊かで穏やかであるということの証左でもあります。

 自分では飲みもしないウイスキーに魅せられていく――
 人として、これ以上の贅沢は、ないのかもしれません。