マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

『火星年代記』追記

 きのうの『道草日記』で触れたレイ・ブラッドベリさんの『火星年代記』は――
 アメリカで、1940年代に個別の短編として書き始められ、1950年に単行本として1冊にまとめられ、出版されました。

 物語は、1999年1月から始まります。
 終わるのは、2026年10月――

 1940年代からみた1999年は、はるか未来に感じられたことでしょう。

 何しろ、1945年までは第2次世界大戦が繰り広げられていたのです。

 第2次世界大戦といえば――
 21世紀の僕らにとっては、完全に歴史書の一節ですよね。

 物語の内容は、当時のアメリカ人による文明批評といった趣きが強く――
 当時の日本人は、敗戦後の混乱期の只中でしたから、とても文明批評などをやっている余裕はなかったでしょう。

 そのような日本人の子孫である僕が、『火星年代記』の世界観や登場人物造形に親しみを持てなかったのは――
 無理からぬことでした。

 にもかかわらず――
 この物語を好んでいる日本人読者が少なからずいるのですよね。

 きのうの『道草日記』で触れた翻訳家の方も、多分そのお一人でした。

 おそらくは――
 物語の内容よりは、小説の筆致に魅せられているのでしょう。

 もちろん、英語の筆致にですよ。

 そこに、読者の多くは、1950年頃のアメリカの輝きと陰りとをノスタルジックに感じるのでしょう。

 第2次世界大戦に勝利をおさめ、

 ――さあ、これから世界をリードしていくぞ!

 と意気込む新興文明の光と闇と――

 そのようなものを語るには、たしかに――
 英語は絶好の媒体かもしれないと感じます。