会話を弾ませるのは――
気の利いた冗談や斬新かつ有用な情報などではなくて――
質問です。
それも――
相手が、つい答えたくなるような質問――
例えば――
――すっかり寒くなりましたね~。
――なりましたね~。このまえ買ったばかりのコートをさっそく着て来ましたよ。
――おや、きょうはコートを着ていらしたんですか。いつも車だからコートは着て来ないとおっしゃっていましたよね。
――いや~。実は、最近は電車で来てるんですよ。運動不足が怖くなってね。家内も心配しだしていて……。
というように――
この場合――
会話を弾ませた質問というのは、「おや、きょうはコートを着ていらしたんですか」です。
代わりに、「へえ、コートを着ていらっしゃるなんて、珍しいですね」と返したのでは、たぶん会話は弾まないでしょう。
あるいは――
質問は質問でも、「どこでお買いになったコートです?」とか「どんなデザインのコートですか」といった平凡な質問でも、たぶん会話は弾まないでしょう。
つい答えたくなるような質問ではないからです。
が――
そんな「つい答えたくなる質問」というのは――
稀に、とんでもない“虎の尾”であったりします。
例えば――
――すっかり寒くなりましたね~。
――なりましたね~。このまえ買ったばかりのコートをさっそく着て来ましたよ。
――おや、きょうはコートを着ていらしたんですか。いつも車だからコートは着て来ないとおっしゃっていましたよね。
――う……実は、最近は電車で来てて……。
――へえ、電車で? どうしてまた? あんなに車通勤がお好きだったのに……。
――ええ、それが……。(どうしよう。「女房と喧嘩して家を飛び出たから車が使えない」なんていえないし……)
というように――
まあ、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の喩え通りですな。
そんな稀なことまで気にしていたら――
会話を弾ませることはできません。