マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

風格を実際以上に重厚に感じさせる錯覚

 組織を長年にわたって率いている人には――
 自然と風格が出てきます。

 その風格は――
 率いる組織が大きければ大きいほどに――
 また、率いる年月が長ければ長いほどに――
 重厚になっていくようです。

 なぜでしょうか。

 わかりやすい要因として、すぐに挙げられるのは、

 ――発言や行動が慎重になるから――

 というものでしょう。

 組織を長年にわたって率いていると――
 自分の軽はずみな発言や行動が組織を深刻に動揺させることに気づきます。

 当然――
 発言や行動は慎重になりますよね。

 発言や行動が慎重になれば――
 それだけで、何となく風格は出てくるものです。

 が――
 それだけではありません。

 長年にわたって組織を率いていると――
 2種類の視線を強く意識するようになります。

 1つは、組織の内部からの視線です。

 ――うちの親分は、この組織をどんな組織にしたがっているんだろう?

 という興味・関心ですね。

 もう1つは、組織の外部からの視線です。

 ――あの組織は、どんな組織なんだろう? その親分はどんな人だろう?

 という興味・関心です。

 これら2種類の視線を強く意識していると――
 しだいに、自分の発言や行動に2種類の規範をもうけるようになります。

 そして――
 それら規範を使い分けていきます。

 このことは――
 組織を率いた経験のない人たちには思いもよらぬことです。

 まさか2種類の規範を使い分けているとは、夢にも思いません。

 ですから、

 ――さっきいっていたことと違う。

 とか、

 ――きょうは別人のように動く。

 とかと訝りかける――
 が――
 冷静になって思い返してみると――
 その組織を率いている人が規範に従っていないようにはみない――むしろ、あきらかに何らかの規範に従っているようにみえる――

 よって――
 次のような結論に達します。

 ――自分には理解できない奥の深い規範に従って発言し、行動しているに違いない。

 と――

 実際には、単に2種類の規範を使い分けているだけなのですが――
 あくまで、

 ――規範は1種類

 と思い込むことによって、「奥の深い規範」と錯覚してしまうのですね。

 その錯覚が――
 風格を実際以上に重厚に感じさせるのです。