マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

精神的な疲弊を耳で聞く

 引退を決断したスポーツ選手が、引退の理由として、

 ――気力・体力の限界

 を挙げるときに――

 その本当の理由は――
 たいていは、

 ――気力の限界

 だけだといいます。

 つまり――
 体力は関係ない、と――

 なぜなら――
 体力の限界なら、知恵や工夫で、いくらでも補えるけれど――
 気力の限界は、知恵や工夫では、決して補えないから――
 です。

 とはいえ――
 スポーツ選手の中には、正直に「気力の限界だけで引退します」とはいえない人もいるようです。

 ――気力の限界なら、気の持ちよう次第で、どうにでもなるのではないか。

 との疑念をもたれそうだからです。

 いわば、

 ――気力の限界は気力で補える。

 という考え方に立脚した疑念ですね。

 体力の限界は身体的な疲弊です。

 一方――
 気力の限界は精神的な疲弊です。

 身体的な疲弊は、目で見て感じ取れます。

 ――目に見えて、くたびれてきたな。

 とか、

 ――ずいぶん老け込んだな~。

 とか――

 が――
 精神的な疲弊は、目で見ただけでは感じ取れません。

 耳で聞かないといけない――
 その人の感情や感覚を言葉に変えて引き出さないといけない――

 そのために効果的な質問を投げかけ、効果的な相槌を打たないといけない――

 精神的な疲弊の聞き取りに慣れていない人は、「気力の限界は気力で補える」と錯覚しがちです。

 そういう人たちに囲まれたら、誰だって本当のことはいわないでしょう。

 本当の理由は「気力の限界」だとわかっていても――
 つい「気力・体力の限界」といってしまうと思います。