マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

「Less is more」の翻訳

 ――Less is more.

 という英語の言葉が気になっています。

 20世紀アメリカの建築家ミースが用いた言葉です。

 ミースは「神は細部に宿る(God is in the detail)」の言葉でも知られています。

 この「Less is more」――
 確定的な翻訳が見当たりません。

 直訳すれば、

 ――より少ないことは、より多いことである。

 ですが――

 ミースは、この言葉を、

 ――デザインは、シンプルであればあるほどに豊かになる。

 といった意味合いで用いたようです。

 ですから、

 ――より少ないことは、より豊かである。

 といった訳が適当でしょうか。

 ただ、この訳では――
「Less is more」という英語表現の奇抜さや簡明さが――
 十分に反映されているとはいえません。

「less」と「more」と――
 まったく正反対であるはずの2つの言葉を「is」で繋げただけという――
 まことに恐ろしいまでの奇抜さ、簡明さです。

 この奇抜さや簡明さに少しでも近づけるために――
 僕は、次の訳を考えていました。

 ――引くは足すなり。

 日本語では――
 より少なくすることを「引く」といい、より多くすることを「足す」といいますよね。

 本当は――
 これら2つの言葉を係助詞の「は」で繋げただけにしたかったのですが――
「引くは足す」では語呂が悪いので――

 断定の助動詞「なり」を足してみました。

 が――

 これって――
 よく考えると――
 だいぶカッコ悪いのですよね。

 他でもない、「Less is more」の訳なのに――
 その精神に反するがごとく末尾に動詞を足したのでは、まさに蛇足です。

 そこで――
 今は、次の訳を考えています。

 ――引くが足す。

 係助詞の「は」の代わりに、格助詞の「が」を用います。

 そうすれば――
 語呂が少し良くなりますので――

 しかも、「引く」と「足す」とを「が」で繋いだだけになっています。