あまり知られていないようですが――
世の中には――
酒を飲むと人生を真っ当に享受できなくなる体で生まれついてしまった人たちが――
一定の割合で、いらっしゃいます。
「真っ当に享受できなくなる」とは――
例えば――
いったん酒を飲み始めると、必ず酔いつぶれるまで飲んでしまい、途中でストップをかけられないとか――
酒のせいで日常生活に支障が出ても(きちんと身繕いができない、仕事に出かけられない等の状態になっても)酒をやめないとか――
酒を飲むと人柄が変わったようになって、いつも周囲の人たちとトラブルを起こすようになるとか――
そういう人たちが、人生を真っ当に享受するためには――
酒を飲まないようにするしかない――
というのが現実です。
残念ながら、現代の医療技術では――
何か薬を飲んだり、手術を受けたりすれば、何の問題もなく酒を飲めるようになる――
というわけには、いかないのですね。
酒を飲みさえしなければ、他の人たちと同じように、人生を真っ当に享受できるので――
なかなかにツラいところです。
僕は日頃、精神科の医師として――
そのような理由で酒を飲むわけにはいかない人たちと、少なからず接する機会があるのですが――
時々かける言葉を見出せなくなります。
そういう人たちに、医者らしく、
「酒は飲まないようにしましょう」
と助言をするのは簡単なのですが――
その人たちは、ご自分が酒を飲めないことに対し、何ら責任を負っていないといえます。
「なんで私だけ酒を飲んじゃいけないんですか」
と問い詰められたら、
「仕方がないんです。生まれつき飲めない体でいらっしゃるので……」
としか答えようがないのですね。