マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

恋の勘違い

 ――恋は勘違いから始まる。

 といわれますね。

 おそらく――
 自分が恋をされていると勘違いをし――
 その勘違いが長らく訂正されないでいると――
 いつしか、その勘違いの相手に本当に恋をしてしまう――
 というパターンが、ほとんどです。

 その逆は、きわめて稀でしょう。

 すなわち――
 自分が恋をしていると勘違いをし――
 その勘違いが長らく訂正されないでいると――
 いつしか、その勘違いの相手に本当に恋をしてしまう――
 というパターンは、そうはないと思います。

 強いて例を挙げれば――
 俳優が、仕事で恋の演技をしているうちに、相手役の俳優に本当に恋をしてしまう――
 といったものくらいです。

 そもそも――
 恋をしていないのに、恋をしていると勘違いをすること自体が――
 まず、ありそうにないのですね。

 それより、はるかにありそうなのは――
 恋をしているのに、恋をしていないと勘違いをすることです。

 つまり、

 ――恋が勘違いで始まらない。

 というパターンですね。

 現に、相手に恋をしているのだけれど――
 自分が、その相手に恋をすることなどありえないと勘違いをし――
 その勘違いが長らく訂正されないでいると――
 いつしか恋が醒めてしまう――
 というパターンです。

 同じ“勘違い”でも、恋の始まらない勘違いよりは、恋の始まる勘違いのほうが、ずっと面白いのですが――

 残念ながら――
 現実の世界では、“恋の始まる勘違い”よりも“恋の始まらない勘違い”のほうが、ずっと多いはずです。

 一方――
 虚構の世界で多いのは――
 勘違いのせいで、なかなか恋が始まらないでいるところに、あらたな勘違いが重なって、急きょ恋が始まった――
 というパターンです。

 このパターンは――
 おそらく、考えられうる全てのパターンのなかで、最も面白いものです。

 だからこそ――
 虚構の世界で多用されるのですよね。

 ――事実は小説よりも奇なり。

 という格言がありますが――
 こと“恋の勘違い”については、そんなには当てはまらないと思います。