妙齢の女性が、
――彼氏いるの?
と訊かれた時の模範“回答”は、
――「いない」といったら、真剣に口説いて下さるの?
だそうですが――
……
……
これに対し、
――「いない」といっても、真剣に口説いたりなさらないでね。
も同様に模範“回答”ではないか――
との異論があるそうです。
真意は――
おそらく、
――「真剣に口説いて下さるの?」と訊いたら、口説かれたがっていると思われるかもしれない。
との懸念です。
これを解消すべく、
――あらかじめ「真剣に口説いたりなさらないでね」と念を押すことも有用ではないか。
と提案をしているのですね。
……
……
一理あります。
たしかに、「真剣に口説いたりなさらないでね」と念を押せば、口説かれたがっているとは思われないでしょう。
が――
そのことと引き換えに――
自分の手の内を明かしすぎることになる点は――
難点といえます。
……
……
ここで見落とせないのは――
そもそも「彼氏いるの?」の質問が配慮を欠いている――
ということです。
夫がいるかいないかなら、ともかく――
彼氏がいるかいないかは、とくに公にする必要のない極めて私秘的な内情です。
それを不躾に問い質している――
当然――
そのように問い質す男性には、その女性に対する何らかの特別な関心があるはずですが――
でも――
いざとなったら、
――いや、ちょっと訊いてみただけで、深い意味はないんだ。
と逃げることもできる――
そのような意味で――
この「彼氏いるの?」の質問は――
卑怯なのですね。
「卑怯」がいいすぎならば――
「不誠実」とでもいいかえましょうか。
そのような質問に対して「真剣に口説いて下さるの?」で応じることは、
――今のご質問は一線を越えていますよ。
と、暗に注意喚起の警句を発することに当たります。
この警句によって――
分別のある男性は、ふと我に返ることでしょう。
――いや、そんなつもりじゃなかったんだ。ごめん、ごめん。
というように――
「真剣に口説いて下さるの?」が模範“回答”とされる由縁です。
……
……
これに対し――
「真剣に口説いたりなさらないでね」は――
単なる注意喚起にとどまりません。
拒む姿勢を明示してしまっている――
卑怯ないし不誠実な質問を発した男性にあるであろう何らかの特別な関心それ自体――
あるいは、そういう男性の存在それ自体――
をあからさまに拒んでしまっている――
これは余計です。
拒むことが余計なのではなく――
拒む姿勢を明示することが余計なのです。
手の内の明かしすぎ――
……
……
拒む姿勢を明示するのは――
その男性が、「真剣に口説いて下さるの?」との警句にも怯まず、敢然と口説き始めるのを確認してからのほうが――
賢明です。