ある音楽グループの歌が――
どうにも気に入らないのです。
そのグループは――
もう10年以上にわたって音楽業界の第一線で活躍していて――
数々のヒット曲に恵まれ、幅広い年代に支持されているようです。
実際のところ――
そのグループの歌は、メロディもリズムもハーモニーも十分に洗練されていて、詞の表現も文芸として全く通り一遍ではなく、
(よく工夫されている)
と唸らずにはいられないものなのですが――
にもかかわらず――
その歌を僕が気に入らないのは――
(歌声が、ちょっとなぁ……)
と感じるからなのです。
メイン・ボーカルの声が――
いたずらに悪ぶっていて、やたらと強気そうで、ほとんど包容力がなさそうに聞こえてしまうのですね。
もちろん――
以上は僕の完全なる思い込みであって――
そのメイン・ボーカルの人が、本当に悪ぶっていて、強気で、包容力がないということは、たぶんないのですが――
その人の声質から僕が主観的に作り上げてしまった人物造形は――
もはや、どうにも動かしがたく――
そんな人物が唄っている歌は、
(ちょっとなぁ……)
と思ってしまうのですね。
……
……
歌手にとって――
技術や声量は、努力しだいで、いくらでも改善できるものだそうです。
が――
声質だけは、努力しだいではどうしようもなく、ただ持って生まれた特異な素質を必要とする――
といわれています。
つまり――
歌手として成功を収めるためには、他に類をみないような魅力的な声質が必要なのであって――
それがなければ、たとえ、どんなに優れた技術や豊かな声量を備えていたとしても、十分ではない――
ということです。
……
……
このことは――
歌手の声質と聴者の好みとの相性は、理屈を越えたところで決まっているらしいことを――
窺わせます。
たぶん、僕に限らず――
ある聴者にとってダメな歌声は、論理を超越したところで“ダメ”なのであり――
その相性の不一致が解消されることは、未来永劫ありえないのです。