きのう電車に乗って座席に着いたら――
向かいの人が貧乏ゆすりをしていました。
左膝から下のほうと左膝に乗せた左手とが――
小刻みに揺れているのです。
そのうちに、右膝のほうまで一緒になって揺れてきて――
(うわ~。けっこう重症だな~)
などと思いました。
……
……
実は――
僕自身も――
中学生の頃までは、貧乏ゆすりをしていまして――
その都度、
「貧乏ゆすりはやめなさい」
と――
母に注意されていましたね。
そのことで――
僕は、
――貧乏ゆすり
という言葉を学んだはずです。
母の注意の語調から――
それが無条件かつ絶対的に悪いものであるということは――
容易に感じとれました。
――貧乏
という接頭語からも、その“悪さ”は明示的に伝わってきました。
なので――
あるとき、一念発起をして――
貧乏ゆすりをやめるべく、悲壮な思いで、やめる努力を始めたのですが――
なんということはない――
努力を始めてから数日も経たずして――
僕は、貧乏ゆすりをしなくなりました。
正確には――
貧乏ゆすりをしている自分に気づくことがなくなった――
あるいは――
誰かから貧乏ゆすりを指摘されることがなくなった――
ということです。
もちろん――
ひょっとすると――
誰もみていないところで、自分でも気づかないうちに、貧乏ゆすりをしていたかもしれませんし――
今でも――
それが続いているのかもしれません。
あるいは――
ひょっとすると――
皆、僕の貧乏ゆすりに気づいているのだけれども――
誰も面と向かって指摘しないでいるだけ、とか――
……
……
(それはヤダなあ~)
と――
本気で思います(笑
……
……
ともあれ――
そんなふうに、いたく嫌われる貧乏ゆすりですが――
なぜ人は貧乏ゆすりをするのか――
そこに――
僕は興味をもっています。
貧乏ゆすりの原因は――
実は、未解明です。
――心身の調子を整えるのに必要な無意識の運動である。
と肯定的にとらえる向きもあるそうです。
実際に――
貧乏ゆすりをする人は、
――貧乏ゆすりをしていると、なぜか気持ちが落ち着く。
と感じています――僕自身も、そうでした。
ところが――
その貧乏ゆすりを目の当たりにしている人は、
――なぜか不愉快な気持ちになる。
というにも事実のようでして――
きのうの僕も――
向かいの座席の人の貧乏ゆすりをみて――
少なからず不愉快な気持ちになってしまったのですね。
だからこそ、
(もし自分が貧乏ゆすりをしていたら、ヤダなあ)
と本気で思ったりしたわけですが――
そこで――
はたと気づきました。
なぜ人は他人の貧乏ゆすりをここまで不愉快に感じとってしまうのか、と――
これは、これで――
貧乏ゆすりの原因以上に奥の深い謎のように思います。