マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

『花木蘭伝説』あれこれ(7)

 バッド・エンドに膨らんだ『花木蘭伝説』の物語の続きです。

     *

 花木蘭の出征を危ぶんだ父親の直感は――
 的を射ていた――

 花木蘭は――
 村長(むらおさ)の遠縁の男と偽って――
 村の若者たちを率い、出征したが――

 村の若者たちの士気は低く――
 例えば、道中、言い争いが絶えなかった――

 やがて――
 村の若者たちは――
 花木蘭の命に背き、逃げ出そうとする――

 父親が付けてくれた召使は、逃げ出す若者らを止めようとして殺された――

 その召使が殺されるのを――
 花木蘭は、ただ黙ってみていることしかできなかった――

 (妾(わたし)は、なんて非力で、臆病なんだ……)

 一人となった花木蘭は――
 このまま野垂れ死ぬことも考えながら――
 それでも、徴兵の命に服するべく、州都を目指した――

 途上――
 武装した30人ほどの一行と出会う――

 一行の頭目とみられる男は――
 みるからに豪傑風の体で、その両腕は花木蘭の細腰ほどの太さもあったが――
 何となく気品があり、教養を感じさせる物言いをした――

 「そこのお前、たった一人で何をしている?」

 花木蘭が経緯を正直に話すと――

 「見上げた心意気だ。ともに戦おうではないか」
 と云った――

 訊くと――
 男は、元は国都に詰めていた近衛将軍で――
 息子が罪を犯し、獄中で死んだあと、自身は野に下って隠棲していたが――
 このほど、帝の徴兵の命に応じ、私兵を連れて参戦するつもりだと云った――

 この元近衛将軍に気に入られ――
 花木蘭は、兵法や武道はもちろん、政に至るまで、様々なことを学んでいった――

 元近衛将軍は――
 戦場に出ると――
 持ち前の才覚をいかんなく発揮し、瞬く間に戦功をあげ――
 ほどなく、大部隊の長を任されるに至った――

 その元近衛将軍に付き従っていた花木蘭も――
 元近衛将軍から教わったことを確実に吸収していき――

 従軍して3年も経つ頃には――
 元近衛将軍の副官のような立場になっていた――

 やがて――
 花木蘭は、元近衛将軍が亡き息子の面影を自分に重ねていることに気づく――

 そんなある日――
 元近衛将軍が熱病に倒れる――

 代理の指揮を任されたのは
 花木蘭であった――

 花木蘭は、元近衛将軍から学んだことを存分に活かして指揮に当たった――

 部隊は連戦連勝を重ね――
 部隊の幹部らも、しだいに花木蘭に敬服していった――

 元近衛将軍が臨終の床に就くと――
 枕元に花木蘭が呼ばれた――

 「いつか云おうと思っていた」

 「はい」

 「そなた、実は男ではなかろう」

 花木蘭が血相を変えたのをみて――
 元近衛将軍は力なく笑った――

 「答えは、お前の顔に出ておる。が……、何もみなかったことにしよう」

 そう云い残し――
 元近衛将軍は息を引きとった――

 名実ともに部隊を引き継いだ花木蘭は――
 その後も戦功を重ねた――

 やがて――
 外敵は遠方に退散し――
 花木蘭らは州都に凱旋した――

 州都には帝が行幸にきていた――

 帝は、花木蘭の評判を聞きつけ、謁見に召し出した――

 帝の前で――
 花木蘭は、自身の戦功は元近衛将軍の庇護を受けたことによるものであり――
 真の功労者は元近衛将軍であることを説明した――

 帝は、花木蘭の飾らぬ言動を気に入り――
 国都に来て近衛将軍の地位に就くように命じた。

 が――
 花木蘭は頑なに固辞を続けた――

 帝が理由を問うと――

 花木蘭は、元近衛将軍の庇護を受ける前のことを包み隠さず言上した――
 自分が実は女であることや、父親が付けてくれた召使を見殺しにしたことも――

 「このように、私は、もとは非力の臆病者でござります。とうてい近衛将軍の器ではござりません」

 そんな花木蘭を――
 帝は、ますます気に入った――

 「では、そなたの望みを何でも叶えよう。何なりと申してみよ」

 花木蘭は云った。

 「それでは、これからは父母に孝行を尽くしたく存じます。どうか生まれ故郷へお帰し下さりませ」

 「よかろう」

 帝は、花木蘭の望みを聞き入れ――
 花木蘭を州都の行政長官に就けた――

 「州都に父母を呼び寄せ、思う存分に孝行を尽くすがよい」

 「ありがとうございます」

 自身が率いていた部隊の幹部らを連れ――
 花木蘭は、生まれ故郷の村に凱旋した――

 父や姉、異母弟や継母らの歓喜の出迎えを受けた――

 花木蘭は、おもむろに男装を解き、部隊の幹部らに自身が女であることを告げると――
 部隊の幹部らは一様に驚いた――

     *

 続きは、あすに――