マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

『花木蘭伝説』あれこれ(6)

 2日間あきましたが――

 きょうは『花木蘭伝説』の続きを書こうと思います。

     *

 花木蘭の物語を――
 あの有名なジャンヌ・ダルクの物語と同じように鮮烈な結末とするには、

 ――物語をバッド・エンドに膨らませていく必要がある。

 ということを――
 3日前の『道草日記』で述べました。

 ここで――
 もう一度、『花木蘭伝説』のおさらいです。

 『花木蘭伝説』とは――
 古代ないし中世の中国で――
 うら若き娘・花木蘭が、年老いた父親に代わって徴兵の命を受け――
 従軍を決意し――
 男装の上で郷里を出て、国境へ赴き、対外戦争に参加――
 男顔負けの活躍で、味方を勝利へと導き――
 無事に郷里へ戻って、いつまでも親孝行を尽くした――
 という伝説ですね。

 この物語の隠れた設定として、

 ――花木蘭は美人ではなかった。

 が重要であるらしいことは――
 4日前までの『道草日記』で繰り返し述べた通りです。

 また――
 物語の結末をバッド・エンドに改変する上で――
 どうしても見過ごせないのは、

 ――いつまでも親孝行を尽くした。

 のくだりです。

 花木蘭が親孝行を尽くさない形でのバッド・エンドは――
 『花木蘭伝説』のあらすじを大きく逸脱しますから、

 ――物語を膨らませる。

 の域をこえます。

 ところで――
 花木蘭にとって、親孝行とは何を意味するのでしょうか。

 もちろん――
 親が生きているうちは、親の言いつけを守り、親の面倒を手厚くみるということに違いないでしょう。

 が――
 親が亡くなったあとは、どうか――

 ……

 ……

 おそらくは、

 ――親の血筋を後世へ確実に残していくこと

 です。

 花木蘭には幼い弟があったとの設定が主流ですから――
 具体的には――
 この弟の血筋を残すために死力を尽くすことが、花木蘭の親孝行といえます。

 以上を踏まえると――
 花木蘭の物語は、以下のように膨らませることができるでしょう。

      *

 花木蘭は――
 国境付近の寒村を治める村長(むらおさ)の家に生まれた――

 幼くして母を亡くしたが――

 10歳ほど年上の兄や姉と――
 10歳ほど年下の異母弟とがいた。

 花木蘭が15歳となって、婚期を迎えた頃――

 兄が病で亡くなった――

 その直後に――
 国都から徴兵の命が届く――
 花木蘭の村から何名か兵を出さなければならない――

 村長の息子として兄が出征するはずであったが――
 兄は他界した――

 異母弟は、まだ幼児である――

 年老いた父親が重い鎧を取り出して出征の準備を始めるのを――
 花木蘭は、黙ってみていた――

 この頃――
 花木蘭の許嫁であった男が――
 美人と評判の村娘と駆け落ちをしてしまう――

 許嫁は、花木蘭の夫となって出征を強いられることを、恐れたのであった――

 花木蘭の父親は、そんな許嫁を咎めなかった――

 「戦(いくさ)に駆り出される危険を冒してまで、木蘭をめとるつもりには、なれなかったのであろう。おそらくは、駆け落ちを共にした女を想うあまりのこと――」

 そんな父親の言葉に――
 花木蘭は深く傷つき、また深く恥じ入った――

 (もう、この村にはいられない……)
 と――

 が――
 もとより――
 村長の娘の身で、村を離れて暮らす算段など立つわけもない――

 (いえ。一つだけある)

 花木蘭は父親に代わって徴兵の命に服することを申し出た――

 父親は怒った――

 「莫迦(ばか)を申すな! 女の身で戦(いくさ)に出るなど、聞いたことがない!」

 「妾(わたくし)は、許嫁に逃げられた身――このままでは何のお役にも立てません。かくなる上は、罪を償いたく存じます」

 「かの者らの出奔は、そなたの罪ではない。良い男は他に幾人もおる」

 父親の説得に――
 花木蘭は涙ながらに訴えた――

 「父上――もはや、この村では、生きていけぬのでございます。皆が妾を『器量あし』と嘲っております」

 「そんなことはあるまい」

 「口に出して云わぬだけにござります」

 「この村から逃げ出したいということか? この父を捨て、母を捨て、姉や弟らを捨てて……」

 「お許しくださりませ……」

 「勝手にするがよい」

 こうして――
 花木蘭は男装をし、女であることを隠して出征をすることになった――

 父親は、それでも娘の身を案じ、信頼できる召使を護衛に付け――
 同じ村から出征する他の若者たちには、

 ――隣村に住む縁戚の男

 と偽って紹介をした――

 男装をした花木蘭に、それと気づく者は一人もいなかった――

 父親は出征を見送った翌日から――
 花木蘭の申し出に応じたことを悔い始めた――

     *

 この続きは――

 また、あすに――