2日間あきましたが――
きょうは『花木蘭伝説』の続きを書こうと思います。
*
花木蘭の物語を――
あの有名なジャンヌ・ダルクの物語と同じように鮮烈な結末とするには、
――物語をバッド・エンドに膨らませていく必要がある。
ということを――
3日前の『道草日記』で述べました。
ここで――
もう一度、『花木蘭伝説』のおさらいです。
『花木蘭伝説』とは――
古代ないし中世の中国で――
うら若き娘・花木蘭が、年老いた父親に代わって徴兵の命を受け――
従軍を決意し――
男装の上で郷里を出て、国境へ赴き、対外戦争に参加――
男顔負けの活躍で、味方を勝利へと導き――
無事に郷里へ戻って、いつまでも親孝行を尽くした――
という伝説ですね。
この物語の隠れた設定として、
――花木蘭は美人ではなかった。
が重要であるらしいことは――
4日前までの『道草日記』で繰り返し述べた通りです。
また――
物語の結末をバッド・エンドに改変する上で――
どうしても見過ごせないのは、
――いつまでも親孝行を尽くした。
のくだりです。
花木蘭が親孝行を尽くさない形でのバッド・エンドは――
『花木蘭伝説』のあらすじを大きく逸脱しますから、
――物語を膨らませる。
の域をこえます。
ところで――
花木蘭にとって、親孝行とは何を意味するのでしょうか。
もちろん――
親が生きているうちは、親の言いつけを守り、親の面倒を手厚くみるということに違いないでしょう。
が――
親が亡くなったあとは、どうか――
……
……
おそらくは、
――親の血筋を後世へ確実に残していくこと
です。
花木蘭には幼い弟があったとの設定が主流ですから――
具体的には――
この弟の血筋を残すために死力を尽くすことが、花木蘭の親孝行といえます。
以上を踏まえると――
花木蘭の物語は、以下のように膨らませることができるでしょう。
*
花木蘭は――
国境付近の寒村を治める村長(むらおさ)の家に生まれた――
幼くして母を亡くしたが――
10歳ほど年上の兄や姉と――
10歳ほど年下の異母弟とがいた。
花木蘭が15歳となって、婚期を迎えた頃――
兄が病で亡くなった――
その直後に――
国都から徴兵の命が届く――
花木蘭の村から何名か兵を出さなければならない――
村長の息子として兄が出征するはずであったが――
兄は他界した――
異母弟は、まだ幼児である――
年老いた父親が重い鎧を取り出して出征の準備を始めるのを――
花木蘭は、黙ってみていた――
この頃――
花木蘭の許嫁であった男が――
美人と評判の村娘と駆け落ちをしてしまう――
許嫁は、花木蘭の夫となって出征を強いられることを、恐れたのであった――
花木蘭の父親は、そんな許嫁を咎めなかった――
「戦(いくさ)に駆り出される危険を冒してまで、木蘭をめとるつもりには、なれなかったのであろう。おそらくは、駆け落ちを共にした女を想うあまりのこと――」
そんな父親の言葉に――
花木蘭は深く傷つき、また深く恥じ入った――
(もう、この村にはいられない……)
と――
が――
もとより――
村長の娘の身で、村を離れて暮らす算段など立つわけもない――
(いえ。一つだけある)
花木蘭は父親に代わって徴兵の命に服することを申し出た――
父親は怒った――
「莫迦(ばか)を申すな! 女の身で戦(いくさ)に出るなど、聞いたことがない!」
「妾(わたくし)は、許嫁に逃げられた身――このままでは何のお役にも立てません。かくなる上は、罪を償いたく存じます」
「かの者らの出奔は、そなたの罪ではない。良い男は他に幾人もおる」
父親の説得に――
花木蘭は涙ながらに訴えた――
「父上――もはや、この村では、生きていけぬのでございます。皆が妾を『器量あし』と嘲っております」
「そんなことはあるまい」
「口に出して云わぬだけにござります」
「この村から逃げ出したいということか? この父を捨て、母を捨て、姉や弟らを捨てて……」
「お許しくださりませ……」
「勝手にするがよい」
こうして――
花木蘭は男装をし、女であることを隠して出征をすることになった――
父親は、それでも娘の身を案じ、信頼できる召使を護衛に付け――
同じ村から出征する他の若者たちには、
――隣村に住む縁戚の男
と偽って紹介をした――
男装をした花木蘭に、それと気づく者は一人もいなかった――
父親は出征を見送った翌日から――
花木蘭の申し出に応じたことを悔い始めた――
*
この続きは――
また、あすに――